脈が乱れる「不整脈」

コロナウィルス感染症に関して、息切れや動悸といった症状があると重症である可能性が広く周知されるようになり、そういった症状の方の受診が増えています。これらの症状は心臓病の症状でもあるので、コロナが心配で受診したら心臓病だった、ということもしばしばです。今回は動悸と呼ばれる症状、脈が乱れる「不整脈」について触れたいと思います。

心臓はどのようにして規則正しく動くのか?

心臓がポンプのように収縮(心臓の筋肉が縮むこと)と拡張(筋肉がゆるんでひろがること)をくり返すことを拍動と呼びます。安静時、心臓は1分間に50~100回、一日あたり10万回 拍動します。 心臓は肺から送られてきた血液を全身へ循環させ、からだに必要な酸素や栄養素を運びます。 心臓は規則正しく拍動しています。そのしくみはというと、心臓の指揮者というべき「洞結節」という場所が規則正しく電気の流れを作り出し、それを心臓各所に伝達することで心臓全体として統一された運動が可能となります。この電気が流れるシステムは刺激伝導系と呼ばれて、洞結節は「発電所」、電気の通り道が「電線」と考えるとわかりやすいでしょう。 洞結節が電気を出すと「心房」がしぼみ、その後電気が遠くへ伝えられると「心室」がしぼみます。この動きを繰り返すことにより、いったん心房に貯めておいた血液を心室がからだ全体にリズムよく送り出すことができるのです。

異常な脈「不整脈」ー治療が必要なもの・放っておいていいもの

上記のような秩序のある電気の流れが妨げられると、不整脈がおこります。特に多い不整脈は「期外収縮」と呼ばれるもので、指揮者である洞結節以外が発電してしまい、おかしなタイミングで心臓が動くことをいいます。「期外収縮」では「脈が途切れる感じ」「胸がつまるような感じ」が一瞬感じられる、それが繰り返す、という症状がでます。1回の症状が1秒以内の「一瞬」である場合、それが繰り返しても治療の必要はないことがほとんどです。一方、「心臓が早鐘のように動く」「どきどきがとまらない」などと表現され症状が数十分以上つづき、とてもつらい場合はなるべくはやく治療が必要となる場合が多いです。逆に脈が遅い場合、徐脈性不整脈といいますが、気を失ったり、むくみが出たりする場合は治療の必要な状態です。

不整脈の診断は困難なこともある

この不整脈、受診したときに症状があると、そのとき心電図をとれば診断することができますが、たいていの場合、受診時には無症状であることのほうが多いのです。そのような場合には、24時間心電計(ホルター心電図検査)を装着して日常生活中の心電図を記録する検査を行うか、携帯型心電計をお貸しして、症状のあるときのみ心電図を記録してもらうか、というようなことを行って、原因となる不整脈を同定する試みを繰り返します。症状の頻度がとても少なく、かつ重篤な場合(特に失神)、皮膚の下に心電計を植え込む手術を行い、数ヶ月以上症状が出るまで気長に待つ、というような検査をすることもまれにあります。最近では、アップルウオッチ(スマホ腕時計みたいなもの)で心電図記録ができるようになったとのこと。将来の不整脈診断が変わるかもしれません。

脈拍の乱れを引き起こす「心房細動」

治療の必要な不整脈としてもっとも頻度の多いものが「心房細動」です。心房細動とは、特に高齢者に多くみられる不整脈の一種で、前述の「発電所」「指揮者」が通常はひとつのはずが心房内にたくさん存在して、無秩序に電気を作り出すため心房がちゃんとしぼまず震えるだけになってしまいます。ばらばらに作られた電気は、すべてが心室に伝えられることはなく、「房室結節」と呼ばれる関所で選別されて通常、1分間に100回前後の脈拍数となります。この不整脈がときどき生じるのを「発作性」心房細動、いつも出ているのを「永続性(持続性)」心房細動といいます。動悸等の症状がつらいのは「発作性」で、出たときにはつらいため電気ショックや点滴で不整脈を止める処置がされたり、もう出なくなるようにカテーテルアブレーションという根治治療が行われたりします。永続性(持続性)は、たいてい発作性から徐々に移行していくことが多いですが、症状を全く感じない人もいて、健診の際、心電図や血圧測定で発見されることがたびたびあります。症状がなければ問題ないわけでなく、この心房細動、心房がちゃんとしぼんでくれないので心房の中で血液がよどみ、血栓(血のかたまり)を作ってそれが脳に移動すると重症の脳梗塞の原因となるため、要注意です。

やってみよう! 脈拍セルフチェック

先日、症状のない高血圧患者さんの血圧を測定すると、脈が不整であるため心電図をとったところ、心房細動を発見しました。自覚症状のない心房細動を見つけるには、自分の脈を定期的に調べるセルフチェックが有用です。手軽にできますので、ときおり行うことをおすすめします。

  1. 手のひらを上向きにします。
  2. 手首を少しのばして、手首のよこしわの位置に、もう片方の手の薬指の先がくるように、薬指、中指、人差し指の3本の指を当てましょう。このとき、少し指先を立てると脈がわかりやすくなります。
  3. 15秒くらい脈拍に触れて、間隔が規則的かどうかを確かめましょう。
  4. 不規則かなと思ったら、さらに1~2分程度続けましょう。それでも不規則であれば、心房細動の可能性があります。