人のすることには過ち・間違いがつきもの

テレビやネットのニュースで、ときおり医療過誤(事故)のことを目にする機会はあると思います。医療以外でも、わざとではない過ち・間違い(法律用語で過失、といいますね)は毎日のように起きています。例えば、先日、買い物に来た乳児の両親が、お互い乳児を連れていると思い込んで、別々の売り場に移動、実際は二人とも乳児を伴わず、夏炎天下の自家用車の中に数時間、自分の子供を放置、死に至らしめた、という事故がありました。にわかには信じがたいことですが、ヒューマンエラーによりこのような重大な事故が起きうる、とうことを、我々は心に留め置くべきだと思います。今回は、特に医療の世界で、重大な過ちにより患者さんの健康が損なわれた事例について、また、そのために医療界がどう変わったか、その取り組み、そして、お薬をもらう日頃の定期受診でも過ちは生じうるということ、について触れたいと思います。

取り返しのつかない、医療の過ち・間違い

ヒューマンエラーが引き起こした医療過誤事件として、みなさんの記憶が新しいものは、1999年におきた横浜市立大学付属病院の患者取り違え事件ではないでしょうか。このときは、ひとりの看護師が二人の患者を同時に手術室に搬送し、手術室看護師・麻酔科医が二人を取り違え、必要のない手術が行われ、必要な手術(心臓手術と肺手術)が行われない、という被害が生じました。このような重大な間違いが生じた理由は複数ありましたが、手術室看護師の質問「Aさんですね?」「Bさんですね?」という、本人確認の問いかけに対し、二人の患者は、おそらく質問がよく聞こえなかったにもかかわらず、「はい」と言い、あるいは、うなずき、間違った本人確認が行われてしまったことが大きかったと報告されています。これをきっかけに、全国の病院で、入院患者には「入院患者識別バンド」を手首に装着するようになりました。スーパーの商品のように、患者もバーコード管理されるようになったのです。また、大きな手術・検査以外の、たとえば採血時などにおいても、患者自身に、氏名・生年月日を言っていただくことにより本人確認を行うようになりました。そして、ヒューマンエラーにより起きた医療過誤、あるいは未遂(直前で気づかれたもの)であっても、医療機関全体でその情報を共有しようというヒヤリ・ハット運動が盛んになりました。この横浜の事故は、以降の医療安全における取り組みに大きな影響を及ぼしたのです。

持病や生活習慣病の定期受診でも過ち・間違いはおこりえます

上記のような重大な過誤ではありませんが、しんとこ駅前クリニックでも、患者さんの取り違え、患者さんから得た検体(血液や尿)の取り違えなど、ヒヤリとしたことが何度かあります。待合室でお待ちの患者さんを、医師はマイクで呼び入れますが、高齢者が多いため、自分が呼ばれたと聞き違い、違う患者さんが入ってくるときはよくあります。顔見知りだとすぐ気付き、「まだ呼んでいませんよ」と指摘できますが、初めての方、久しぶりの方だとすぐに気がつかず、Aという方の診療内容が、Bという違う方のカルテに記録されることになります。たいていは、話か食い違うこととなり、途中で気がつくのですが、一度、検査する直前までいってようやく気づいたことがあります。重大な過失ではないですが、的外れな検査が行われるので褒めたものではありませんよね。

処置室でも患者入れ違いは起きます。採血などでは、患者さんご自身に、氏名・生年月日を言っていただき、本人確認をしていますが、検査後、入れ違うことがあるのです。具体的には、正しく採取された検体に、間違った氏名ラベルが貼られるという過ちです。当院でもこのような事例がありました。ご夫婦で一緒に受診され、一緒に採血される方の血液データが、以前と全く異なるものであったため、どうしてそうなったのかよく調べてみたところ、二人のデータがそっくり入れ替わっていることに気がつきました。チューブに貼る氏名ラベルが入れ替わったものと推察されました。このようなことが起きると、以前の結果とはかけ離れたものとなるので、通常はあたらな病気が発症したと疑います。そうなると余計かつ的外れな検査が行われることになります。

当院では経験がありませんが、よくある過ち・間違いとして、とてもよく似た名前のお薬が、間違って処方されるということがあります。最近では、電子カルテの3文字入力で薬剤を検索、出てきた候補から処方したい薬剤を選ぶ、という作業を経て処方せんが発行されます。降圧薬である「ノルバ」スクを処方したかったのに、同時に出てきた候補である「ノルバ」デックス(乳がんの治療薬)を誤ってクリック、そのまま処方せんが発行されるといったミスです。こんなミスが、薬局でも気づかれることなく、そのまま投与されてしまうことはまれですが、ヒヤリとしますよね。

過ち・間違いの被害にあわないために心がけること

では、患者さんご自身が、このような過ち・間違いによる医療過誤に巻き込まれないようにするにはどうすればいいでしょうか?いくつか挙げてみたいと思います。

① よく聞こえなかった・理解できなかったのに生返事をしない・もう一度聞き返すことをためらわない

これは耳の遠い高齢患者さんに多い傾向があります。もう一度聞き直すと申し訳ない、なんだか理解できなかったけどまあいいか、と思ってしまう、というお気持ちが生返事につながるのだと思います。聞き返して下さい。そうすると医師は、大きな声で伝えようとします。大きな声は怒っているように聞こえてしまうので、それも気重になる原因なんでしょうが、決して怒っているわけではないのです。

② 処方せんを受け取ったら、よく確認する

間違いをしないように細心の注意を払っていますが、上述のように医師も間違いをします。受け取った処方せんは、その場でよく確認して下さい。薬局へ行く前に、それを指摘して下さい。

③ 薬局で薬をもらったら、よく確認する

正しい処方せんを受け取っても、まだ油断はできません。受け取ったお薬が、ちゃんと処方せんどおりのものか、その場で確認してください。種類は合っていても、日数が間違っているかもしれませんよ。おつりの額は確認しても、薬の数は確認しない方が多いです。おうちに帰ってしまってから気づいても遅いです。薬局から「あなたがなくしたのでは?」と言われたら反論できません。足りない薬を再度処方する場合は、1~3割負担ではなく10割負担となります。気をつけましょう。

採血されるときに、いちいち名前と誕生日を言わされるのは面倒だな、と感じているあなた。このやりとりはとても大切なので、お付き合い下さいね。