突然の病気、冷静に対処できますか?

 最近、「終活」される方、多いと聞きます。お葬式、お墓、お金、家、などのこと、残されたご家族を困らせないように、気力・体力があるうち、準備しておこうという方が増えているのでしょうね。不慮の事故や病気への備えについても、テクノロジーの進歩も相まって、ますます関心が集まっています。健康を大きく損ねる大病は、突然発症するもの。そういった非常事態への備えに関して触れたいと思います。

ご家族が、呼びかけに答えない「意識障害」になったら?

 これはよくあるパターンです。突然、そのような状況に置かれた場合、たいていは慌てて何もできない、という方が多いようです。意識がない、ということは、脳に血液が送られていないか、脳に大きな障害が生じている、ということを意味します。いずれの場合も緊急性がありますが、特に前者の場合、心臓が止まっている可能性があり、放置すると5分で脳死に至ります。ですので、可及的速やかな心肺蘇生の開始が、その後の運命を決めます。自宅で家族がそうなった場合、という状況を想定してみましょう。患者さん以外の同居家族がたくさんいれば、そんなに問題はありません。誰かが心肺蘇生を始め、他の人が電話で救急車を呼べばいいのです。問題は、患者さん以外、一人しかいない、夫婦の世帯の場合です。仮に、さっきまで元気だった夫が突然倒れ、意識障害になってしまったという状況を考えてみます。心肺蘇生を早くはじめなければならない、しかも、救急車も呼ばなければ。。一人でやることがいっぱい。ちょっと想像しただけでも焦りますね。うまくできるかどうか、自信はないでしょう。でも、やらないと、目の前の大事な命は失われます。

ご家族が心肺停止、家には自分ひとり、役に立つのがスマホ

 心肺蘇生のことは後で触れるとして、まずは救急車を呼ぶ、です。固定電話だと、119電話で話している間中、心臓マッサージはおそろかになります。手がふさがりますから。それに対し、スマートホン(スマホ)なら、救急隊の人と電話で話しながら、心肺蘇生が続けられます。スマホには、「スピーカーモード」というのがあります。若い方には当然の機能ですが、高齢者は知らないかもしれないと思うので、あえてここで紹介します。電話をかけている最中、スマホ画面をみてください。「スピーカー」というボタンがあります。

これを押すと、ハンズフリーで(スマホを手から離し、床に置いても)会話することができます。119番に電話した直後、すぐにこのスピーカーモードにして電話口の相手と会話しながら、空いた両手で心臓マッサージを再開し継続します。このスピーカーモード、普段の通話でも問題なく会話できるので、日頃からこのモードにして使い慣れておくのがいいです。ただ、迷惑になるので周りに人がいないところで行うのがいいでしょう。
 最近、緊急時に役に立つ機能が追加されたので紹介します。iPhoneでは「緊急SOS」、Androidでは「緊急通報」です。この機能は、スマホロックを解除することなく、119番や110番に電話ができるものです。ただ電話をするだけでなく、たとえ過酷な状況(重い症状で話ができない、監禁されて声を出せない、など)で会話ができなくても、GPSを介した位置情報や、あらかじめ登録した個人情報(氏名、年齢、性別だけでなく、血液型・持病・使用中の薬剤など)も同時に送信されるので、不慮の病気や事故、犯罪被害などの際にとても有用だと思います。先日のニュースでは、アメリカの遊園地でジェットコースターに乗ったのを、自動車事故と誤認して911コール(アメリカの119番)が自動発信され、救急隊が遊園地に駆けつけた、というものがありました。この機能は、周囲に誰もいないときにこそ、その真価が発揮されるので、たとえば遭難の際にも役立ちます。スマホをお持ちで、この機能をご存じなかった方は、「iPhone 緊急SOS」、「Android 緊急通報」というキーワードで検索し、YuTubeなどの解説動画をごらんになり、ご自身のスマホの設定をされるといいと思います。よくわからなければ、周囲の若い人に教えてもらってください。設定後は、iPhoneだとサイドボタンを長押し、または、5回連続で短く押すと、下の画面が立ち上がるので、あとは119を選ぶだけ、緊急時、冷静でない精神状態であっても使用できると思います。いざという時に備えて準備しましょう。

質のいい心臓マッサージこそが一番大事

 皆さんは、消防署などが指導する心肺蘇生法の講習に参加したことはありますか?心臓マッサージや、人工呼吸、AED(電気ショック)など、やること・覚えることが多いので、敷居が高いですよね。2010年に心肺蘇生のガイドラインが改定され、もっと簡単になりました。その方が、臆してしまう人が少ないから、というのと、調査研究で「心臓マッサージさえ、しっかりやれば救命率はそこそこ良かった」からです。その要点は3つです。
1 大きな声で呼びかけ、肩などを軽くたたいても全く反応がない場合は、人を集めて救急車を呼ぶ。
2 呼吸が弱い・ない、と思ったら、心臓マッサージを開始する。
3 人工呼吸苦手なら、する必要なし。とにかく心臓マッサージ。
 図のように要救助者に対し、真上からしっかり体重をかけて、胸の中央を強く、リズミカルに押し下げる(5cm以上)。そのリズムは、「おさるのかごや」「ドラえもん主題歌(こんなこといいな、できたらいいな、、)」の速さで。スマホの項でも述べたとおり、なるべく中断することなくやり続けることが、脳に血流を送り、脳死や永続的な脳機能障害(植物状態など)を避けることにつながります。これもYuTube動画がたくさんありますので、スマホで検索して視聴してみて下さい。
 以前、所沢市民を対象に、心肺蘇生の講習をしたことがありますが、「大切な家族を救うために大変良い話を伺った、いざというときには役に立つようにしたい」、と言っていただいた奥様もいれば、自分の夫がもしそうなったら、あえて何もしないかも、という、本気なのか、冗談なのか、ブラックなご婦人もいました。命を保つのは、スマホよりも夫婦仲の良さの方が大事かもしれませんね。