様々な症状を引き起こす「甲状腺の病気」

最近、いろいろな症状で受診された患者さんの最終診断が、「甲状腺の病気」であることが多いという印象があります。この病気は、流行る、ということはないのですが、頻度が高いのによく見逃されてしまう病気なので、こんな症状が甲状腺の病気だった、ということを紹介しようと思います。

コレステロールが高い。まずは甲状腺機能をチェック

38歳の女性が、「血液中のコレステロールが高いということで、よその医院でスタチン(コレステロールを下げる飲み薬)を出された。本当に必要か?」という疑問を持ち、来院されました。高コレステロール血症の方をはじめて診察する際、「血液検査で甲状腺機能をみたことはありますか?」と尋ねます。そうすると、ほとんどの方が「ありません」とおっしゃいます。この方にも血液検査を受けていただいたところ、血液中の甲状腺ホルモンが低い「甲状腺機能低下症」でした。首の前の方にある甲状腺(図)から、血液中に甲状腺ホルモンが放出されます。

これが少ないと、血液中の悪玉(LDL)コレステロールや中性脂肪が高くなるのです。スタチンは中止し、チラージンという甲状腺ホルモン製剤を服用してもらったところ、血液のコレステロール濃度は正常化し、今まで気がつかなかった「疲れやすい」という症状も改善しました。ついでながら、閉経前女性では男性に比べ、女性ホルモンの作用により心臓病などの動脈硬化性疾患に罹りづらいため、専門医は飲み薬でコレステロールを下げる治療を行うことをほとんど行いません。さらに、この方には挙児希望がありましたが、スタチンは妊婦には使用できない、禁忌となっているのです。的外れな治療が行われたばかりか、もし妊娠するようなことがあれば胎児に有害である可能性があり、二重に責められることになりかねませんでした。遺伝性の病気を除き、若い女性の高コレステロール血症に、お薬の必要性はまずありません。知り合いにそういった方がおられたらご紹介下さい。

体重が減った、寝汗をかく、原因は甲状腺

74歳の女性が、「最近2ヶ月で、理由もなく3kgの体重減少があり、寝汗をかく」ということで受診されました。体重減少と寝汗、というと、悪性リンパ腫などの悪性腫瘍が疑われますが、甲状腺機能亢進症を疑うことを忘れてはいけません。この患者さんの血液は、甲状腺ホルモンが高値であり、さらに甲状腺に対する自己抗体(通常、細菌・ウィルスなどの病原体を攻撃する抗体が、自分の身体の組織を標的とする)が検出され、バセドウ氏病による甲状腺機能亢進症と診断しました。甲状腺機能を抑える飲み薬(抗甲状腺薬)を 投与したところ、2~3週後には体重は増加、寝汗もかかなくなりました。また、血液中のコレステロールは、機能低下症とは逆に低値になるのですが、これも上昇し、正常化しました。甲状腺ホルモンは「新陳代謝を活性化する」と認識している方が多いと思いますがそのとおりで、体重を減らし、汗をかかせ、心拍数を増やし、まるで運動しているような効果をもたらします。事実、甲状腺ホルモン製剤は以前、やせ薬として使われることがありました。バセドウ氏病の甲状腺機能が正常になると、これまでのエネルギー摂取量では多すぎることとなり、体重が増えすぎる、ということがあります。この方にも、あまり食べ過ぎないように、とお伝えしました。

胸がドキドキ、心臓の病気と思いきや。。

当院は循環器内科なので、「胸がドキドキする」という症状で来院される方が多いです。上述のとおり、甲状腺ホルモン過多では、脈拍数が上がり、動悸がします。不整脈などの心臓病と同様に、甲状腺異常も疑って検査を進めます。76歳の男性が、「どきどきする」と受診、血液の甲状腺ホルモンが高値でしたが、甲状腺自己抗体は陰性でした。この場合、バセドウ氏病による甲状腺機能亢進症とは異なる治療方針となります。自己抗体陰性の場合、症状の発症に伴い「咽頭痛」はあれば、①亜急性甲状腺炎(ウィルスが原因)、痛みがなければ、②無痛性甲状腺(自己抗体は陰性だけど何らかの免疫異常が原因)、この方は②無痛性甲状腺炎と診断されました。この病気は通常治療不要で、時間と共に甲状腺機能は正常化し、症状も消失します。この方は、ドキドキの症状はさほど困らない、ということだったので、経過観察としました。自然に治ってしまう人が多いですが、数ヶ月後に、逆に甲状腺機能低下症となっていく方もいるので、定期的な血液検査を行っていくことにしました。

足がむくむ、原因は甲状腺

新型コロナウィルス感染症が蔓延していた頃、「足がむくむ」という方が増えました。2021年4月から12 月まで、当院にむくみ(浮腫)が気になる、と受診された方は65名いらっしゃいました。浮腫があると、通常、心臓病、腎臓病、甲状腺異常、深部静脈血栓症、下肢静脈瘤、その他のまれな炎症性・血液疾患、などを念頭に問診、検査を行います。これらがすべて正常だとすると、残るは何らかの治療薬による「薬剤性浮腫」か、足を動かさないでじっとしているといった、生活習慣の変化に伴うむくみであることがほとんどです。実際、65名のむくみの原因についてですが、心疾患1名、甲状腺機能低下症1名、深部静脈血栓症1名、下肢静脈瘤2名、下肢運動器(関節、靱帯)の損傷による炎症性浮腫3名、薬剤性浮腫12名、のこりのすべては生活習慣の変化による浮腫でした。この頃は、おうち時間が長くなり、動かないこと(寡動)で足がむくむ方が増えたのですね。最近では、寡動による浮腫は少なくなっていますので、甲状腺機能異常の方の頻度も増えてきました。浮腫は、甲状腺機能が亢進しても、低下しても、どちらでも起きます。バセドウ氏病なら抗甲状腺薬を、甲状腺機能低下症ならチラージンを投与すると、浮腫は改善します。不思議ですね。

その他、高齢者の甲状腺機能低下症では認知症のように見える場合もあるなど、甲状腺の病気は様々な症状として発症しますし、頻度も高いです。かかりつけ医はこのようなことを意識して診療にあたるべきなのです。