コロナ禍の「受診控え」―コロナ以外で命を落とす人が増えている?

 新型コロナウイルスの感染が拡大して以降、心筋梗塞などで医療機関を受診する患者が減ったとみられることが、心臓病の学会などの調査で分かりました。学会は病院などでの感染をおそれる「受診控え」が背景にあるとみて、命に関わるため異常を感じたらためらわず受診するよう呼びかけています。心筋梗塞は心臓に栄養を運ぶ血管が詰まって、血液が流れない状態になり心臓の筋肉が死ぬ病気で、素早く治療を始めなければ命に関わります。心筋梗塞を発症すると、5人に1人が病院にたどり着く前に死亡する、という調査結果もあります。コロナウィルス感染症が蔓延したアメリカ・ニューヨーク州では、2020年3~4月の心臓病による死亡者数が平年の4倍であったと報告されています。救急車を呼ぶ、急患診療所にかかる、といった「緊急性」があるかどうかの判断が難しい場合に、一般の方が看護師に電話で相談できる、「大人の救急電話相談」があります(子供版もあります)。では、どのようなことに注意して「緊急性」を判断すればいいのでしょうか?症状別にご説明しようと思います。

胸が痛い・息苦しい

 この症状は重篤かつ緊急性が高い病気(心筋梗塞・心不全・肺動脈血栓塞栓症・大動脈解離・気管支喘息)のサインであり、軽くみてはいけません。救急車を呼ぶかどうかは、症状が「突然に出たか」どうかで決まります。数日・数週続き、つらさがあまり変わらない場合は緊急性はありません。翌日の日中に受診して下さい。しかし、日中は何ともなかったのに夜になって症状が出てとてもつらい、という場合、迷わず救急車を呼んで下さい(または所沢ハートセンターに電話)。また、「これまで経験したことがない、つらい症状」 であるかも大切です。突然出たといっても、以前経験したことがあるようなもので、我慢できそうな症状なら緊急性は低いと思います。

頭が痛い

 緊急性のある頭痛で大切な特徴は2つです。①「突然に」おきたか ②「これまで経験したことがない」強い痛みか、です。②は胸の症状と同じですね。「突然」というのは、何時何分とはっきり言えるものが「突然」と表現されます。たとえば、7時のニュースが始まり、OOアナウンサーがおはようといった瞬間、などです。朝は大丈夫だったけど昼にはつらくなってきた、というのは「突然」ではありません。「突然」の頭痛には、くも膜下出血や脳出血など、数時間放置すると死に至る病気が含まれます。迷わず救急車を呼んで下さい。また、胸痛と同様に、「これまで経験したことがないくらい強い頭痛」というのも緊急症のサインです。

お腹の症状

 お腹の症状で緊急性があるものはかなり限られます。腹痛のない下痢は全く緊急性がありませんし、受診する必要さえない(治療の有無にかかわらず自然によくなる)場合がほとんどです。一方、腹痛の判断は難しいです。「急性腹症」といわれる緊急性がある腹痛の特徴として、①これまで経験したことがないほどつらい ②四六時中痛い(痛みが弱まることがない) ③お腹の筋肉が緊張して硬くなるほどの痛み。尿路結石発作(横腹~左右に偏った腰痛)は比較的突然で、①②の特徴を伴いますが緊急性はありません。でも、自分で病院に行けないほどつらい痛みなので、救急車で運ばれることがめずらしくありません。腹痛でもお腹の病気ではない場合もあり要注意です。特に、みぞおちの痛みは心筋梗塞である場合があります。その場合、「吐き気・冷汗を伴う」ことが特徴です。消化器科を受診し、ときおり診断が遅れることがあります。

発熱

 99%以上の発熱は緊急性がなく、救急車を呼ぶべきではありません。コロナ禍の今、心配ならまずかかりつけ医(当院では綾織)に電話で相談してください。しかし、以下の特徴がある場合、緊急性があります。①意識状態がおかしい(呼びかけたときの反応がおかしい・人格が変化したような感じ>脳炎・敗血症の可能性) ②吐き気・いつもよりもまぶしく感じる・頭を横に振ると耐えられないほど痛みが強くなる(このうち2つ以上該当)>髄膜炎の可能性)

患者さんもいろいろで、ささいな症状がとても心配になる方もいれば、重大な病気の症状をやせ我慢される人もいます。近親の方はそういった患者さんの特徴をふまえ、いつもとは違う、急がなければいけないかもしれない、と感じられたら、迷わず救急車を呼びましょう。自己判断せずに、医療の専門職の判断を頼ってほしいですし、病院・クリニックは感染対策を徹底しているので安心して受診してほしいです。