高齢者がお薬とうまくつきあっていくには?

高齢者がお薬とうまくつきあっていくには?

最近の週刊誌には、高齢者医療についての記事が多く掲載されています。
ある記事には、ほとんどすべての薬を有害のように書いているのに対し、他のものには、本当に必要な薬を中止することの害についても触れています。読者(患者)として、メディアの情報をどう解釈し、行動すればいいのか、とても悩みますよね。
今月は高齢者がお薬とうまくつきあっていく姿勢について触れようと思います。

高齢者ほどたくさんのお薬を処方されやすい

日本の医療制度は国民皆保険という恵まれたものなので、ちょっとしたことでも病院にかかり、不必要なお薬が処方されやすい環境にあります。
高齢者の医療費負担は少ないので、さらにその傾向が強まります。
重大な病気を疑うほどの症状・所見がなく、お薬なしで経過をみた方がいいという場合、そのことを時間をかけて説明するよりも、「薬でも出しておきましょう」ととりあえずの満足を得てもらう方が楽なので、医師はつい無駄な薬の処方をしてしまいがちです。
薬を出さずに「経過観察」といわれると、「何もしてくれない」というふうに受け取る方もいるので、そういう患者さん側の姿勢も問題です。
3月のしんとこ通信(下記)に、血圧が高くてあわてて病院に行くと、たくさんの薬が処方されてしまう例をご紹介しました。
このようにたくさんのお薬を服用することを「ポリファーマシー」と呼んでおり、国をあげてこういった現状を改善する方策がとられつつあります。
3月号しんとこ通信から―70代女性が頭痛など体調が悪いときに血圧を測ると180くらいあったので、あわてて近所くのクリニックを受診しました。
そうすると、血圧の高いときに飲みなさい、と即効性のアダラートという飲み薬を処方されたそうです。
僕が医師になった頃(1992年)、このような治療がさかんに行われていましたが、最近では即効性のくすりで血圧を下げることは良くないとされています。
この方の一時的な高血圧は、困った症状により引き起こされており、その症状を和らげる治療は 容認されても、血圧を急に下げることは奨められません。
即効性アダラートには脈拍が早くなる副作用があるので、「どきどきする」という動悸の症状が出やすいのです。
この方もその動悸が出たので、そのお医者さんにその旨伝えると、今度は「精神安定剤を出しましょう」、ということでまた無駄な薬が出ます。
この安定剤の副作用により、患者さん「頭がぼーっとする」と。次はどんな薬が出てしまうのでしょうね??

高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015

心臓病や脳血管病をすでに発症しており、その再発予防のために服薬するお薬は中止することは奨めません。
しかし、そのような病気を持たない高齢者の「多剤併用」は可能な限り避けるべきです。
本来、かかりつけ医はそういう姿勢で患者さんの診療にあたるべきなのですが、日本では総合的/全人的な診療能力を要するかかりつけ医教育が貧弱なのです。ですので、他の医師が処方した薬を中止していいかどうか分からないので、ついそのままになってしまう、という現状があります。
その結果、ポリファーマシーによる薬害が多発しやすいのです。
そのような現状を改善すべく、日本老年医学会は「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」という、医療従事者向けの高齢者診療指針を出しています(残念 ながら、一般の方向けの文書はまだ出ていません)。
これには高齢者に「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」が掲載されており、どんな副作用が起きやすいのか、それでも使用せざるを得ない場合の注意点などが書いてあります。週刊誌にはこういうことを取り上げてほしいですね。

 このリスト(1~8まであります)を受付に置いておきますので、必要な方はお声をおかけ下さい。
薬品名は「一般名」で記載してあります。
現在服用中のお薬は「商品名」でしか記載がないかもしれません。パソコンやスマホで検索すると、「一般名」が分かると思います。それでも不明の際は、受診時、または薬局でおたずね下さい。