週刊誌の健康記事、どこまで信用していいの?

 2016年のしんとこ通信で、週刊誌の記事についてコメントしました。患者さんからの記事についての質問が多かったためですが、その後、冷静な方が増えたせいか、週刊誌の記事についての質問は少なくなりました。しかし、僕もある程度信用しているプレジデント誌が、「信じてはいけない!健康診断」というタイトルで、残念な記事を掲載しているので、その感想を述べたいと思います。

記事の登場人物はバランスの取れた人物か?

 特集の中で一番大きな記事は、近藤誠医師と養老孟司先生の意見が述べられているものです。近藤先生は、著書「患者よ、がんと闘うな」で有名な方で、彼の意見に対して真っ向から反対する著作が多く刊行されるように、その意見は極端でセンセーショナルなものです。養老先生は、研修医の間に臨床医に向いていないと自覚し、早々と解剖医という基礎医学者に転身し、以降、患者さんの生死に向き合う臨床医とは無縁となった方です。そのような臨床医学や医療の現実を知らない人が、自分の信じる独りよがりな理屈を根拠に、「数値や薬に頼らず「身体の声」を素直に聞こう」などど書いているのです。近藤先生の意見には僕も一部正しいと思うことがありますが、反対意見もとても多いということはやはり極端な考え方で、その表現はセンセーショナルなものとなりがちで、売り上げを伸ばすための方略と受け取らざるを得ません。結論としては、このようなバランスの偏った登場人物の意見が掲載されている記事は読むべきではない、と思います。

センセーショナルなタイトルの記事は売り上げを伸ばすための商業主義のあらわれ

 プレジデントの記事の最も残念なところは、週刊ポストや週刊現代のように、センセーショナルなタイトルで高齢読者の興味とあせりを煽っているところです。健康記事と同様に、最近、高齢者向けの記事として、年金や老後の蓄えに関するものがありますが、こういったことに詳しい友人にいわせると、正しいこともあれば誤ったことも述べられているとのこと。健康記事に関する僕の感想と同じです。やはり、週刊誌の記事だけを鵜呑みにして、物事を決めるのは良くないと思います。

正しいことと間違っていることを見分けるのはとても難しい

 僕の目からみた、記事の信憑性についてコメントしてみます。
「エコー検査で膵臓がんや卵巣がんを早期発見するのはまず無理」>正しい。人間ドックなどでよく行われる腹部エコーですが、その通りだと思います。
「納豆で血液さらさら、は間違い」>正しい。そのような調査結果はありません。かつてNHKがそのような主張を薄弱な根拠を頼りに「ためしてガッテン」で放映したことが批判されました。
「グルコサミンは関節痛に効く、は間違い」「コラーゲンでお肌プルプル、は間違い」>正しい。両者とも胃で分解されてしまい、そのものが関節や肌に届くことはありえません。患者さんからこういったものを使用してもいいか、という質問がよくありますが、そのたびに僕は「お財布に余裕がある方はどうぞ」とお答えしています。
「ラーメンよりチャーシューメンの方が太りにくい」>この文章を鵜呑みにすると間違い。麺(糖質)の量が同じであれば、チャーシューの分だけカロリーは高いので、そのようなことはありえません。麺の量を減らせばそうかも。
「LDLコレステロールの基準値は厳しく、γGTPのそれは甘い」>記事の内容をみると、この著者は肝臓(γGTPが高値)については興味がありそうで、コレステロールのことはあまり詳しくはなさそうです。コレステロールを治療すべきかどうかは、患者背景(すでに心臓病や糖尿病を持っているか、など)により方針が大きくことなります。そういったことに言及していないし、γGTPについても高値だとどういう病気が考えられて、次にどのようなことをすればいいのか、全く触れられていません。この記事のように、情報が片手落ちで偏りが大きい場合、治療の必要な患者さんが「コレステロールはそんなに気にしなくてもいいんだ」と勝手に薬をやめてしまい、心臓病などの病気の再発を招くので、記事の罪は重いです。
「一日に2L以上の水を飲むといい」「一日一食はよくない、3食がベスト」>よく調べないと真偽はわからない。こういったことを調査した結果はありません。また、持病によりその効果はまちまちと思われます。それなのに、自信満々に持論を展開する人がいることに首をかしげます。
 このように、医療に詳しくない一般の方が、メディアの情報を正しいか否か、判断するのはとても難しいのです。

じゃあ、何を信用すればいいの?

 それでは、何を頼りに自分や家族の健康に関する疑問を解決すればいいのでしょうか?今回取り上げたプレジデントの中で、唯一まともな記事がその疑問に対する答えを示してくれています。そのタイトルは、「知らないと危険!ヤブ医者の見分け方、医者の話のウソ」という、これまたセンセーショナルな怪しいタイトルですが、その内容はタイトルとは逆にとても良いものです(おそらく著者には気にくわないタイトルだったと思います)。『医療は不確実性の学問。100%正しいということはありえません。「絶対に治る」「必ず効果がある」など、まともな医者なら口にできません』『「様子を見ましょう」そのセリフの真意』など、我々医師が患者さんに理解してほしいことがいろいろ書いてあります。その中で、病院・医師選びのポイントとして、いくつかの意見が述べられています。すべての記述が正しく、バランスが取れているのですが、中でも『道案内に長けたかかりつけ医を探そう』と題した話題や、『「それなりの医者」であるか否かを調べるための基準は内科・外科などの基本領域の専門医を持っているか』など、とても参考になることが書かれています。
 正しい健康情報をどのように得るかについて、僕の意見です。①信頼できるかかりつけ医に聞く(バランスの取れた医師なら、分からないことは分からないと言い、疑問に答えることができる人を探してくれる。紹介状は大切。逆に、行ってはいけないところも暗に教えてもらえる)、②信頼できる医療機関(大学病院、公立病院など、利益誘導をしそうにない組織)・学会のホームページをみる(少し難しいですが、まともで正しい情報です)、③新聞記事:信頼できる医療機関や研究機関の調査結果に関する記事は信用できますが、新聞広告は信用できません。④週刊誌など、情報を得るために利益が発生するメディアには関わらない。