新型コロナウィルスワクチンは打つべきですか?

 新型コロナウィルスの感染者数は減りつつあり、どうにか収まってくれそうな状況の中、広くワクチンの接種が始まろうとしています。かかりつけ患者さんから、「私はワクチンを打った方がいいですか?」ときかれることが多くなりました。現在、医療従事者の一部からワクチン接種が開始されており、日本人におけるファイザー社製ワクチンの接種急性期副反応の状況が明らかになってくるまでまだしばらくかかりますが、質問の答えとしては、打つべきだろうと思います。その理由について、以下にしるします。

ファイザー社製のワクチンは驚くほど有効性が高い

 まず、我が国に最初に導入され、医療従事者や高齢者、基礎疾患を有する方に接種される予定の、ファイザー社製ワクチンについて。このワクチンは、世界で初めて使用される「メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンです。この「世界初」というのに過敏に反応し、危ないのでは?、という根拠のない懸念が報道されているのではと推察します。通常、ワクチンは病原体を毒性を弱めたり、不活化したりしたものを接種します。そのタンパク質に対し、ヒトのからだは異物と認識し、次回、からだに本物の病原体が入ってきた際に、あらかじめ準備された免疫系が素早く反応し、からだへの侵入は許しても、病原体の増殖を抑え、病気の発症を予防する、というものがワクチン接種の意義です。新しいmRNAワクチンがどのように免疫に作用するかについて簡単に触れます。mRNAというのはヒトをはじめあらゆる生物の設計図であるDNAを鋳型(いがた)として作られる、「タンパク質のもと」であり、その配列に応じてアミノ酸がひも状につながる反応がおき、結果としてタンパク質(たとえば、皮膚などのコラーゲン、赤い血液の成分であるヘモグロビン、髪の毛のケラチン、など)が合成されます。この反応は、遺伝子組み換え技術の中心的な役割を担っており、糖尿病患者さんに注射するインスリンなど、ヒトのタンパク質合成には不可欠なものです。この新規ワクチンは、ヒト体内の細胞を利用して、新型コロナウィルスの表面に存在する「スパイク」とよばれるタンパク質を合成し、その異物に対する免疫を誘導しようとするものです。mRNAはとても不安定なため、すぐに分解されてしまうので(マイナス75度で保管するのはそういう理由)、ヒトの細胞に入るまで「脂質ナノ粒子」という保護剤でコーティングする必要があります。アナフィラキシーショックという反応が生じるとすれば、この脂質ナノ粒子に対するものなのだと思います。不活化した病原体もタンパク質ですし、mRNAからできるスパイクタンパクもタンパク質なので、mRNAワクチンが従来にワクチンにくらべて危険、ということはないと思います。さらに前述のとおり、mRNAは一度役割を終えたら、たいていは数時間のうちに分解されるので、長期間からだにとどまって悪さをするということは考えにくいでしょう。
  また、ワクチンの有効率の報告をみると、毎年接種されるインフルエンザワクチンの有効性が70%を上回ることがまれなのに対し、ファイザー社製ワクチンの有効率は95%ときわめて有効性が高いことがわかりました。さらに心配な副反応については、インフルエンザワクチンよりも少し多い傾向にありそうですが、死亡やその他の重篤な副反応はまれで、注射部位の腫れ/痛みや熱感、頭痛などの数日で改善する軽微なものしか報告されていません。

日本のマスコミは信用できないし、日本人のメンタリティーもワクチン接種に対しネガティブ

 ここ数日(2月15日前後)の報道をみていると、医療従事者でさえ接種を希望する人が過半数を超えない、という調査が、民放局の番組で紹介されていました。対照的に、参加者が医師に限られるネット情報サイトによる調査では、82%が接種する、と解答しているのです(2020年10月の調査では61%だったので、上記の調査報告を見て、接種希望へ傾いたものと思われます)。おそらくこの民放番組の責任者が、「ワクチン恐しでいこう」と、全く根拠なく、視聴率稼ぎのための方向性決めをおこない、その方針に合致したニュースのみを切り取って報道するという、お決まりの日本のテレビ業界の悪習が行われたものと推察します。
 ワクチン接種に対する日本人のメンタリティも問題視されています。子宮頚癌はパピローマウィルス感染により発症するため、このウィルスに対するワクチンを接種することにより子宮癌が予防できることが広く知られ、欧米諸国では多くの若い女性が接種しますが、日本では不幸にも生じたまれな接種後副反応(因果関係はいまだ不明)とされる神経疾患発症が報道され、以降、積極的な接種勧奨が控えられ、きわめて低い接種率のままです。欧米ではほとんどの人が株式等への投資を行っているのに対し、日本ではいまだタンス預金が多いことを考え合わせると、メリットがあってもわずかなリスクが存在するなら何もしないという、いかにも日本人的な気分がワクチン後進国となってしまっている現状の原因ではないかという気がします。

ワクチンは自分のために、ということもあるけど、社会のために接種するという考え方

 ワクチンを打つことは、自分に降りかかる不幸を避ける、ということもさることながら、社会に感染症を蔓延させない、という社会的活動という側面もあります。感染症との戦いの中で、もっともうまくいった事例は天然痘の撲滅でしょう。また、最近政府は、先天性風疹症候群(妊婦が感染し、胎児に心臓、目、耳に障害が生じる)発症予防の目的で、風疹ワクチンを接種していない年齢層の男性に、無料で風疹抗体検査(免疫がなければワクチン接種まで行う)を行うという政策を実施するようになりました。政府から案内が来て、この検査のために来院したある男性がこの検査の意義を理解していなかったので、「あなたのためにするのではなく、あなたの周囲の妊婦さんのためにするんですよ」とお伝えしたら、是非協力したいと言って下さいました。

ワクチンはどこで打つことになるの?

 しんとこ駅前クリニックは、ワクチン接種後の副反応確認のために一定時間待機する十分な場所がないことから、新型コロナウィルスワクチンの接種を行わないことといたしました。かかりつけ患者様にはご迷惑をおかけしますが、何卒ご理解いただきますようお願い申し上げます。ワクチン接種の具体的計画が今後策定されると思いますが、中規模病院、地域のクリニック、体育館等での集団接種、ということになりそうです(自治体からの通知をお待ち下さい)。ワクチン接種ができない方はまれだと思います。薬剤、食品など、複数の物質に対しアレルギー反応が起きた方は、そうでない方に比べ、副反応が起きやすい、という調査結果はあります。かかりつけ患者さんからの質問は、受診の際でもいいですし、「電話再診」(詳細は下記)でお答えすることもできます。ちなみに、しんとこ駅前クリニックの職員全員、皆さんに先んじて接種しますので、感想を聞いてみて下さい。

電話再診をご利用ください

 予定外の受診をご希望の場合、医師と電話で話すだけでいい場合があります(例えば、薬の飲み方について質問があるなど)。その際、医師と電話でお話ができる「電話再診」をご利用ください。すぐに電話口に出られることは少ないですが、なるべく早く折り返しの電話をします。3割負担で220円、1割で70円強です。