前回、なぜコロナウィルスワクチンの3回目接種が検討されているのか、お話ししました。簡単におさらいすると、変異ウィルスの顔は少しずつ変化しており、免疫細胞の「顔認証システム」をだまして感染する、認証システムはワクチン接種後、徐々に精度が下がる、その精度の低下を抗体の数で補おうとするのが3回目接種によるブースター効果(抗体量が数~数十倍に増える)でしたね。すでに2回目接種を終えた方が国民の半数を超え、高齢者を中心に3回目接種が始まることは確実です。諸外国から、3回目の効果・副反応について、調査結果が報告されつつありますので、できるだけわかりやすくまとめてみました。
2回接種後の感染「ブレイクスルー感染」、どんな人に多いの?重症化は?
その前に、コロナクチン2回接種を終了していても、その後感染するいわゆる「ブレイクスルー感染」について触れます。先日、ブレイクスルー感染のリスク因子を調査したイスラエルの研究結果が報告されましたが、その要点は、①高齢者ほどワクチン接種後の感染リスクが低下する。②フレイル(加齢や疾患によって身体的・精神的な機能が徐々に衰え、心身のストレスに脆弱になった状態)の高齢者では感染リスクが高まる③貧困地域に住む人々は感染リスクが高まる、というものです。①の解釈は難しいですが、おそらく若い世代よりもワクチン接種後であっても感染防止行動を維持していることが推察され、③に関してはも感染防止策の重要性を示唆するものと思います。また、ワクチン接種を受けた感染者では、受けていない感染者に比べて、とくに60歳以上の場合、 感染しても症状のない「無症候性感染」がほとんどであった、とのことです。このことは、ワクチン2回接種の絶大な効果(厚労省の推定では、8月高齢者死亡の9割を防げたそうです(推定死者数7,544、死亡者実数725))を裏付けるとともに、2回接種後も周囲に感染を拡げる可能性があり、従前どおりのマスク着用やその他の感染防止策が必要であることを示しています。②も重要な知見で、僕の患者さんにも、コロナ自粛で引きこもり生活となり気力・体力が減退、フレイルの初期と思える方が相当数います。コロナを怖がりすぎず、感染防止対策を講じながら、スポーツや文化活動など、活動的な社会生活を送りましょう。また日本の調査結果では、ワクチンの効果が低下しやすい人(抗体価の下がりやすさ)の特徴も示されていて(下図)、①高齢者②喫煙者③毎日の飲酒、だそうです。禁煙、節酒は大切です。①は、上記イスラエルの結果とは逆ですが、抗体価よりも、重症化/死亡率低減効果の方がはるかに重要ですので、あくまで参考までに。
3回目接種の効果は?
3回目接種がコロナ感染症の感染・発症・重症化・死亡を低減させるというデータについては今後の調査を待つ必要がありますが、イスラエルの報告をみると抗体価は間違いなく上がるようです(下図)。1回目と比較して2回の接種により、発症・重症化・死亡を大きく減らすことがわかっているので、3回接種の効果も期待できるものと推察します。ここで注目したいのは、我が国で広く使用されているファイザー製とモデルナ製の差異です。モデルナ製の特徴として、副反応の頻度は高いけど、デルタ株に対する有効性はファイザーのそれを上回ることが知られていますが、3回目の抗体価上昇効果も大きいのですね。モデルナは副反応が多く、有効性に優れる、と言えます。来年以降は、肺炎球菌ワクチンや帯状疱疹ワクチンのように、希望のワクチンを選べるようになるといいですね。
3回目接種の副反応がこわい。大丈夫?
理論的には3回目のほうが副反応が強く出るだろうと考えられていましたが、イスラエルの調査結果で、4500人のうち88%が2回目の接種に比べて3回目の副反応が『同等』または『軽い』と答えたと報告されています(下図)。ただ、これはあくまで60歳以上の人の結果であり、若い世代でどうなるかはまだわかりません。高齢者の方は、あまりご心配に及ばなくてもよさそうです。
ワクチン予診医に接種を控えるように言われ、せっかくの接種機会を失うことも
ワクチン接種が進んでくると、接種会場での色々なできごとが耳に入るようになりました。見過ごせないのは、ワクチン接種の可否を判断する医師(予診医)の理解不足のために、接種を控えるように指示され、せっかくの接種機会を逃す人がいることです。先日久しぶりに受診された患者さんで、冠れん縮狭心症疑(症状は落ち着いている)とされていた方が、予診票にそう記載したら、「接種はやめておきましょう」と。仮にその病気であったとしても、基礎疾患があり、むしろ積極的な接種対象であるはずなのに。無知により、医療側がワクチンの接種控えを引き起こしているのです。その患者さんには、次の機会にはあまり余計なことを書かない方がいいです、とお伝えしました。以前から繰り返し述べていますが、「コロナワクチンを接種できない人」は、「食品や化粧品に広く使用されている添加物ポリソルベートに対してアレルギーがある場合」、「慎重に判断すべき人」は、「複数の原因成分に対し、アナフィラキシーショックを起こした過去がある場合」「過去、コロナウィルスワクチンによるアナフィラキシー反応を経験した場合」、です。それ以外の人は接種できます。3回目接種において、不幸にしてそのような予診医にあたってしまった場合、異なる医師に意見を求めたい、と依頼して下さい(たいてい複数の医師がその場にいます)。将来はAI診断によりワクチン接種の可否を決めることになると思うので、こういったことはなくなると思います。