帯状疱疹ー ワクチンが有効な50歳以降に発症する病気

 最近、かかりつけの患者さんで帯状疱疹に罹患する方が多いという印象です。帯状疱疹は、多くの人が子どもの頃に感染する水ぼうそうのウイルスである水痘ウイルスが原因で起こります。このウイルスは水ぼうそうが治った後も体の中に潜んでいます。日本人成人の90%以上の方は、帯状疱疹の原因となるこのウイルスが体内に潜伏しており、80歳までにおよそ3人に1人が帯状疱疹になると言われています。心臓病、糖尿病などの基礎疾患のある人や高齢者は重症化リスクが高く、そのような方がかかりつけ医とされる当院にとって重要な疾患なのです。 帯状疱疹の症状としては、体の左右どちらかにピリピリとした痛みがあらわれ、数日後、痛む場所に赤い発疹が出てきます。この病気、皮膚科の病気ですが、実は循環器科や整形外科で診断されることの多い病気なのです。発疹よりも痛みの出現が先なので、胸が痛ければ循環器科、手足や腰が痛ければ整形外科に受診するのです。

「左の胸が痛い。心臓が心配。。」心臓病の胸痛は左??

 胸痛で発症する帯状疱疹について触れます。循環器専門医として、これまで多くの胸の痛み(胸痛)の患者さんをみてまいりました。心臓は左にあるという知識から「心臓が痛い」といって左胸を押さえてくる人がいます。例外はあるものの、実は本物の心臓病では胸のほぼ真ん中が痛むことのほうが多いのです。また、痛む場所を聞くと「この辺り」と胸部全体を手のひらでおさえることが多く、「ココ」と指で指すことはまれです。「正確な場所を指すことができない」というのが心臓病の胸痛の特徴なのです。逆に、左の胸を指先で指すような場合、帯状疱疹の発症初期である可能性があります。そのような場合、「心臓の痛みの特徴ではなく、おそらく肋間神経痛です。それ以外には帯状疱疹の可能性がありますので、数日程度、痛む場所に発疹が出ないか、注意深く観察してください」とお話しします。

帯状疱疹の治療ー はやければはやいほどいい

 帯状疱疹の治療では、抗ウィルス薬をなるべく早く服用することがすすめられます。診断が遅れると治療も遅れますが、その遅れにより帯状疱疹後神経痛(発疹ができた場所が長期にわたり痛む)の発症率が高まることが知られています。早期診断に大切なのは、ひとつに患者さんがその可能性を疑い受診すること、もうひとつに皮膚科以外の医師が初期の段階で帯状疱疹の可能性を考えられること、です。発疹が出る前に帯状疱疹の診断をすることは難しいですが、発疹と痛みの特徴を知っていれば、診断は比較的容易です。ヒトの手足・体幹には脊髄からでる神経(胸なら肋間神経、足なら坐骨神経など)が左右に伸びます(下図)。下の写真では左の胸神経T10(第10胸椎周囲から出る神経)に一致した領域に発疹があります。

帯状疱疹の後遺症ー とてもつらい神経痛/顔・頭の帯状疱疹

 不幸にして帯状疱疹後神経痛になってしまうと、痛みは徐々に増していき、夜も眠れないほどの強い痛みが出ることもあります。50歳以上で帯状疱疹を発症した人の約2割は、皮膚の症状が治った後も痛みが3ヶ月以上続く帯状疱疹後神経痛になると言われています。また、頭部から顔面に帯状疱疹が起こることもあり、目や耳の神経が障害されるとめまいや耳鳴りといった症状が出たり、重症化すると視力低下や失明、顔面神経麻痺などの重い後遺症が残る危険性もあります。

帯状疱疹をワクチン接種で予防する

 50歳以上の方は帯状疱疹を予防するためのワクチンを接種することができます。これまでは水ぼうそうの予防にも使われている水痘ワクチンを使用していましたが、2020年1月に新しい帯状疱疹ワクチンである「シングリックス」が使えるようになりました。これら両者の特徴は下の表の通りです。簡単にまとめると、新しいワクチン「シングリックス」は、「高いけど有効性が高く、長く効く」と言えます。接種ご希望の方は、医師、受付までお知らせ下さい。