家庭血圧計とうまくつきあっていくには?

家庭血圧計が普及して、ご自宅や職場で簡便に血圧測定が出来るようになりました。
それ以前は診察室の血圧値を頼りに、高血圧の診断と治療が行われていましたが、診察室血圧が高くても家庭血圧が正常である「白衣高血圧」の存在が明らかとなり、高血圧の診断・治療には家庭血圧測定が求められるようになってきました。
一方、一般の方にとって、その測定値をどのように解釈するか、迷うことが多くなり、便利な反面、悩ましい状況もあるようです。
今回は、家庭血圧計とうまくつきあっていくにはどうすればいいのかについてお話しします。

血圧はいつも変動している

健康に関する様々な指標について、患者である皆さんがある程度の理解を持っておいた方がいいと思います。
その数値には、
①一定期間、同じような数値を維持するものと、
②変動しやすいものの2種類があります。
体重や糖尿病指標のヘモグロビンA1cなどは①で、血圧・血糖値などは②です。
特に血圧は秒単位で変動します。
運動中には血圧は200以上になりますし、アルコール摂取・入浴後には低下します。
そのほか、患者さんにとって不都合な質問(増えるとよくない体重の話とか。。)をしたようなとき、心の動揺が血圧の増加となってあらわれますし、夫婦げんかの際には当然、高くなっていることでしょう。
よくあるシーンとしては、頭痛やめまいなどつらい症状が出た際に、皆さん心配で血圧を測ることが多いようですが、そういった「つらい」「痛い」「腹立たしい」などの要因があると容易に血圧は上昇し、200以上となることもまれではありません。
一日のうちでも早朝にはたいてい高く、就眠前は低くなる傾向が一般的です。
このように、血圧を測るタイミングによっては「高血圧」「低血圧」いずれもあり得ますので、血圧の病気の診断には異なる日の複数回の測定が必要ですし、治療の際もそのようなことに留意します。

一時的な高血圧があると不安になる。救急受診が必要?

家庭血圧を測定される方の中で、いつもより血圧が高いと心配になり、救急病院の受診をされたり、救急車を呼んだりする方がいます。
その一時的な高血圧の99%以上が「まったく緊急性のない」ものです。
公益財団法人日本医療機能評価機構が運営するMinds版ガイドライン解説(一般の方向けに病気のことをわかりやすく解説したもの)では以下の記載があります。
一過性の血圧上昇における治療はどのようなことを行いますか?

1.過去の血圧の程度を聴取し、一過性の高度の血圧上昇例で進行性の臓器障害がみられない場合は、褐色細胞腫を除いて緊急降圧の対象にはならない。
2.高度の血圧上昇が持続すれば、中間持続型の降圧薬を内服させる。

3.十分な問診により精神的要素が考えられれば、必要に応じてメンタルヘルスケアの専門医に紹介する。

救急受診が必要な場合は、血圧のいかんにかかわらず、これまで経験したことのないような重大な病気を疑わせる症状(胸痛、はげしい頭痛、呼吸困難、失神など)がある場合です。
心配性の方は、なにか困った症状があるとつい血圧を測ってしまい、そのような症状によりたいてい血圧は高くなっていますので、高い血圧をみてさらに不安になるという悪循環におちいります。
そのような人には、つらい症状があるときには血圧を測るのをやめましょうと言っています。

残念ながら、不適切な一時的高血圧の治療が未だにおこなわれています

以前の通信で、血圧が高く心配で受診すると不適切な医療が行われることをご紹介をしました。
医療機関側にもまだ問題があります。もう一度、お読み下さい。

 70代の女性が頭痛や肩こりなど体調が悪いときに血圧を測ると180くらいあるので、あわてて近所のお医者さんに受診します。そうすると、血圧の高いときに飲みなさい、と即効性のアダラートという飲み薬を毎回処方されるそうです。

僕が医師になった頃(1992年)、このような治療がさかんに行われていましたが、最近ではこのような即効性のくすりで血圧を下げることは良くないとされています。
この患者さんの一時的な高血圧は、困った症状により引き起こされており、その症状を和らげる治療はしても、血圧を急に下げることは奨められません。
この即効性アダラートという薬、副作用があるのでこういう治療は良くないということになったのですが、脈拍が早くなり「どきどきする」という動悸の症状が出やすいのです。
この方もその動悸が出るので、そのお医者さんにその旨伝えると、今度は「精神安定剤を出しましょう」、ということでまた無駄な薬が出ます。この安定剤の副作用により、患者さん「頭がぼーっとする」と。次はどんな薬が出てしまうのでしょうね??

 
血圧を下げる治療は、数年後におこるかもしれない重大な病気を予防するために行います(一時的な高血圧を治療すべき例外として、高血圧性心不全、大動脈解離、高血圧性脳症の急性期などのごく一部の病気には必要です)。
ですので、じっくり考えて(複数回の受診を重ねた後)長期にわたりお薬を服薬するかどうか、慎重に検討すべきです。
決して、一回かぎりの血圧測定をもって治療が開始されてはなりません。