どんな薬にも副作用があります

医療行為という言葉をきいて皆さんが想像するのは何でしょうか?手術、点滴、いろいろありますが、一番身近なのは飲み薬ではないでしょうか?飲み薬には医師の発行する処方せんが必要なものから、薬局で気軽に買える市販薬までいろいろあります。一般的に、薬局で買えるものは重い副作用が少なく比較的安全で、医師が処方するものはそうではないもの、ということが言えますが、どんな薬にも副作用があるということを認識する必要があります。ときおり「副作用があるならその薬は飲みたくない」という方がいますが、まれな副作用のリスクを受け入れられない方は病院に行かずにつらい症状を我慢するしかありません。すべての社会生活にはリスクがつきものです。自動車を運転するからには事故の可能性はゼロではないので任意保険に加入しますよね?医療を受けるのも同じことなのです。症状をやわらげたり、病気の発症リスクを下げたりする良い効果と、まれに起こりうる副作用のリスクを天秤にかけるという、冷静な判断力が求められます。
よくある薬の副作用は、皮膚にできものがでる薬疹、血液検査で分かる肝機能障害などがあり、これらはすべての薬でおこりえます。今回は、皆さんがあまりご存じない、「この薬にはこの特徴的な副作用」というお話をしようと思います。

頻尿のお薬のせいで腎臓が悪くなり入院する羽目に

高齢男性が、「夜の頻尿が困るのでお薬がほしい」と希望されました。以前の通信で、高齢男性は潜在的に前立腺肥大があるので、「抗コリン作用」のある総合感冒薬による尿閉(おしっこが出なくなること)が起きやすいことをお知らせしました。頻尿治療薬には、この抗コリン作用を持つものが多いので、これ以外のお薬をお出ししました。初めてのお薬でしたので、14日分処方し、調子が良いとのことなので、後日、電話処方(医師が電話でお話しし、2回目以降のお薬を処方)を行いました。すると、次の予定受診で「食欲がなく調子が悪い」とのこと。もしや、と思い、血液検査、超音波検査を行ったところ、自覚症状の乏しい尿閉による腎後性腎不全(尿流が悪くなり、膀胱・腎臓がパンパンに腫れ(図、黒い部分がたまった尿)、腎機能が悪化すること)による症状でした。通常の尿閉は、お腹が張ってとてもつらいという自覚症状があるのですが、高齢者の場合、出るべき尿が出きっていないのにそれに気づかず(一部、排尿はあるので気づきづらい)、いつの間にか腎臓が悪くなる場合があるのです。この方は入院加療により、元の状態まで改善しました。比較的副作用が少ないお薬を出したのに残念なこととなってしまいましたが、高齢者への新規処方の際は注意深く経過を観察すべきと、あらためて勉強になりました。

認知症のお薬のせいでおしっこが近くなった

逆に、お薬の副作用により、高齢男性の頻尿がおきることがあります。アルツハイマー型認知症治療薬の一種(ドネペジルなど)は上記のコリン作用があるため、頻尿治療薬とは全く逆の作用を持つからです。認知症患者さんではしばしば、お薬の管理が不適切となり、薬の過量投与による副作用がおこりえますが、上記認知症治療薬の飲み過ぎで、コリン作用の重い症状(よだれ、発汗、徐脈、嘔吐、息が止まる、など)が出て危ない状態になる場合もあります。

高血圧のお薬のせいで足がむくむ

高齢女性が、感染症蔓延に伴い、運動不足に加え精神的に不安定となり、これまで投薬により良好であった血圧が上がってきたとのこと。受診したところ、主治医は新しい降圧薬を処方。以来、両側の足の甲がむくむようになったと、当院を受診されました。色々調べた結果、むくみ(浮腫)の原因疾患はなく、増やされた降圧薬、アムロジピンによる薬剤性浮腫と考えられました。コロナウィルス感染症に伴う寡動+運動不足が顕著で、運動不足→血圧上昇+むくみ→むくみやすい降圧薬の追加→さらなるむくみの悪化、という悪い連鎖が原因となったのですね。降圧薬の変更と、足を動かす運動をお奨めいたしました。

足のむくみで処方された利尿剤にも副作用がある

降圧薬による薬剤性浮腫に、むくみに効くお薬、利尿薬が処方されてしまう場合をときおり目にします。この利尿薬にも有名な副作用があります。この薬は水分を皮膚から引き抜くだけでなく、血管の中や内耳からも水を引き抜きます。そうすると、たちくらみ、めまい、難聴といった副作用が起こりやすくなります。薬で生じた副作用(薬剤性浮腫:これを副作用と気づいていない)を治療するために処方された違う薬の副作用が重なる、という良くない連鎖です。まずは原因薬の中止/変更が原則ですが、アムロジピン自体は良いお薬なので、薬は継続したまま足を動かす運動に加え減塩に気をつけることでむくみは解消することもあります。

他人からもらった薬で重い副作用が。。この場合、救済されません。

薬の副作用の発生は、一定の確率で、だれにでも起きます。 そこで、医薬品を適正に使用したにもかかわらず、副作用により入院治療が必要になるほど重篤な健康被害が生じた場合に、医療費や年金などの給付を行う公的な制度が「医薬品副作用被害救済制度」です。ときおり患者さんから、「友人からもらった薬を服用してみた」というお話を聞くことがありますが、そのお薬の服用は友人の方に対する治療行為でありその人への治療ではありません。医師は、患者さんの背景(性別、年齢、基礎疾患、腎機能、肝機能、服用中の他薬など)を把握し、慎重に処方しています。他人への治療は、自分には不向きなばかりか有害かもしれません。他人への処方薬を服用し、重篤な副作用が出た場合、上記制度の対象外となります。

はじめてのお薬、「できるだけたくさんください」は、やめておいた方がいいです

受診が面倒だからといって、はじめて処方されるお薬をたくさん欲しがるのはやめた方がいいです。よくあるのは、はじめて使う湿布をたくさん処方してもらったけど、初回の使用で皮膚かぶれが出てしまう、花粉症の薬で薬疹が出てしまう、などです。はじめての薬の使用の際、何が起こるか分かりません。医師のすすめに従い、短期の処方とするのが賢明です。たくさん余ったお薬をかかえて、医療機関や薬局に訪れ、「返金してくれ」という常識のない方がたまにいます。処方せんの交付は商取引ではありません。保険診療では、一度行った治療行為をなかったことにはできません。お気を付け下さい。