それって熱中症?

今年の夏も暑くなりそうですね。昨年、テレビのニュースでは「熱中症で救急搬送」という内容が毎日のように紹介されていました。
暑い夏に調子が悪くなったら、だれもが自分は熱中症では?と心配になりますよね。

実は、医師にとって熱中症の診断は難しく、そう簡単にはできないのです。
なぜなら、以下の熱中症の診断基準のとおり、似たような症状が出る、多くの他の病気を否定しなければならないからです。
診断基準―「暑熱環境に居る、あるいは居た後」の症状として、めまい、立ちくらみ、生あくび、大量の発汗、筋肉痛、こむら返り、頭痛、意識障害、高体温等の諸症状を呈するもので、感染症等の他の原因疾患を除外したものとする。

昨年夏に、「熱中症」と診断されたけど実は別の病気だった2名の患者様についてご紹介します。
76歳の男性が発熱、咳、食欲低下で他の病院を受診しました。
その日はとても暑く、医師の診断は「熱中症」。入院が必要ということで別の病院を紹介したところ、その病院の診断は「肺炎」でした(下図CT写真、矢印が肺炎)。
熱中症ではなく、肺炎の治療でとてもよくなったそうです。咳+発熱では普通、肺炎を念頭に置きますが、とても暑い、という状況に医師も惑わされるのですね。

僕が主治医の78歳女性がめまいで他の病院を受診されました。
熱中症ではないか、と医師に伝えたそうです。
その結果、診断は「熱中症」。後日よくお話を聞いてみると、頭の向きを変えるとその都度回転性めまいが誘発されたとのこと。
「良性発作性頭位めまい症」の典型的な症状です。この方は「暑熱環境」にいた、という事実はなかったにもかかわらず、ご本人の解釈が先入観を医師に与え、夏のめまいというだけで熱中症の診断になってしまいました。

このように、患者さんの話しようによっては医師は間違った判断をすることがまれにあります。また、ご自身の解釈ばかりをお話になり(高学歴の人に多いです)、何が困っているかよく分からない方が時々見受けられます。たとえば、「足の血のめぐりが悪い」などとおっしゃる方。ただ、「足がしびれる」と伝えればいいのです。解釈は医師がしますので。
困った症状があり、重い病気でないか心配なときは以下のことに留意して、お医者さんとお話ししましょう。

1 伝える症状は3つまで
2 医師の質問の意味が分からなければ、聞き返す
3 自分の解釈はなるべく控えて、事実のみを伝える

熱中症の診断は難しい、という例をもうひとつ。
昨年6月、私、綾織も熱中症と考えられる状態になってしまいました。
朝起きたらふらふらしてまともに歩けず、座ってもつらくて横になりたい、パソコンのキーボードもうまく打てない、という症状です。
その日も多くの患者さんの予約があったのですが、ベッドに横になって点滴をした状態で必要に応じ起き上がり診察する、というような状況でした。その日拝見する患者さんよりも僕の方が体調が悪い、という情けないことでした。
自分の体調が悪いと、医師ですから自分で鑑別診断を考えるのですが、まず心配だったのは脳梗塞でした。
昼休みに友人のクリニックで脳MRIを撮影しそれは否定しました。
午後になり徐々に体調が回復し安心しましたが、後々、よく考えてみると、上記の症状は熱中症による中枢神経の障害ではないかと。。
冷房・扇風機をつけずに寝ていたのがよくなかったのでしょうね。
自分が熱中症になってもすぐには診断できませんでした。また、家の中でも熱中症になるのだなと、身をもって学習しました。みなさんも気をつけましょう。