かかりつけ医をうまく利用してください

前回は、理想的なかかりつけ医とは、という内容でした。せっかく、定期的に受診され、あなたのお身体のこと、また、どんな価値観の方なのか、かかりつけ医はよく分かっています。今回は、かかりつけ医をこんなふうにうまく利用してください、というおはなしです。

オンライン診療ーはじめての受診では病気を見逃す可能性が。。

新型コロナウィルス感染症蔓延をきっかけに、インターネットを介したテレビ電話越しに、医師と対話をすることで、病気の診断、お薬の処方ができる「オンライン診療」が推し進められるようになりました。厚労省の、頭でっかちなお役人がお気に入りの政策のようです。医療の現実を知らないんですね。われわれ医師達は、このオンライン診療の拡散に大きな危機感を持っています。なぜなら、特に内科医は、病気の診断について学ぶ際、上級医師から「五感を駆使して診断に臨む」ということをたたき込まれるからです。まず、患者さんが診察室に入ってくるとき、ドアの開け方、歩き方などを観察します。いつもと違うな?と感じたら、「何かありましたか?おかしな歩き方だけど」と質問します。そこから、神経疾患の新規発症などの診断につなげます。動くと息苦しいという人には、視診・聴診を行います。頸静脈(首の血管)拍動から心不全を、ひゅーひゅーという呼吸音から気管支喘息を診断します。以前、僕が非常勤で勤務していたクリニックで、待ち時間を短縮するため、「風邪外来」なるものをやっているところがありました。患者さんが、「私は風邪なのではやく診て下さい」というシステムです。ディズニーランドのファストパスみたいなもんです。無料でしたが。風邪のような初期症状で発症する怖い病気があります。急性心筋炎は発熱から始まり、急速に心臓が悪くなって運が悪いと死に至ります。劇症型糖尿病も風邪のように始まり、血糖が高くなり、意識がなくなり死に至ります。患者さんに診断を任せてしまうのであれば、医師のいる意味はありません。自らの存在価値を否定するシステムです。
このように、はじめて診る方、あるいは、画面を通して病状を表現することが難しい高齢者・小児には、オンライン診療は不向きであり、トレーニングを積んだ医師の対面診察が必須であると考えています。

かかりつけ患者さんだからこそできるオンライン診療

かかりつけ医をもつメリットについて再度考えてみましょう。先に述べたように、かかりつけとして、定期的に受診し、いつのも立ち居振る舞い、いつもの他愛のないやりとり、いつもの血圧、いつもの赤血球数、いつもの腎機能、調子がいいときの心電図波形、など、「いつもの」を医師に把握してもらい、「いつもと違う」時に備えるのが最大のメリットなのです。調子が悪くなったとき、以前の血液データと比較し、変化があった項目と、自覚症状、身体所見などと併せて、何が起きているのか、診断に臨みます。また、はじめての診察には向かないオンライン診療もやりやすいのです。電話で症状をお聞きし、重病の可能性がほぼ否定される場合、たとえば風邪らしいとき、基礎疾患、併用薬、いつもの腎機能などを考慮した適切な用量のお薬を処方、ご都合のいい時間に受付まで処方せんを取りに来ていただけます。待ち時間はありません。コロナウィルス感染症が蔓延していたころは、近所の薬局に処方せんをFAXで送り、家の近くでお薬を受け取ることができましたが、残念ながら今はできません。電話処方ではなく、コロナ/インフルエンザなどの検査を希望される場合は来院していただく必要があります。その際は他の患者さんと重ならない時間帯に来院していただきます。電話でお話し、お身体を拝見する必要があると判断した場合、やはり来院していただきます。このように判断することができるのも、いつもの他愛のないやりとりから患者さんの個性を把握しているからです。たとえば、この方はつらい症状を我慢して、自分のことを後回しにする傾向があるから、来院してもらおうかな、など。「電話再診」をうまく使って下さい。最後に詳細を記します。

日頃あまり出さないお薬の処方もやりやすい

かかりつけ医なら、はじめてのお薬や、他の医療機関から処方されたお薬の処方もやりやすいです。繰り返しますが、基礎疾患・腎機能などの情報、併用薬を把握しているため、自分が初めて処方する場合でも、薬の種類・量を選ぶのに迷いがなくなります。はじめての患者さんに、以前服用したことがある薬を出す場合、1~2週の処方にしますが、かかりつけ患者さんなら比較的長期の処方が可能です。日頃出さないお薬を出すというケースとして、花粉症のお薬がありますが、毎年同じお薬であれば、まだ症状が出ていない時期に、シーズンに備えて長期に処方することができます。その他よくあることは、皮膚科で処方された外用薬(塗り薬)の処方を希望されることがあります。皮膚科外来は混んでいるから受診するヒマがない、という方は多いです。大量のお薬は出せませんが、次回皮膚科受診のつなぎ程度なら処方しています。また、睡眠導入剤は30日を越える処方ができないものが多いですが、他の薬が長期処方の場合、足りない分の睡眠導入剤の処方は電話処方ができます。わざわざ来院しなくていいことが多いので、まずお電話を下さい。

何か質問があるときも、電話再診

調子が悪くなった時以外でも、電話再診は便利です。たとえば、他の医療機関で、検査のためにお薬の休薬が可能かどうか、かかりつけ医に確認するよう求められた場合や、生命保険加入の際、前回診察時の血圧値を知りたいという場合など、ちょっと電話で医師と話をすればいいときは、電話再診で十分ですよね。最近、検査結果などの画像送信ができる、LINEを用いたサービスを開始しました。詳しくは受付にお問い合わせ下さい

以上、かかりつけ医をうまく利用して下さいね。