ネットの医療情報 見極めるには

最近、プロ野球チームオーナー企業のネット医療サイトが、誤りや盗用など、ずさんな記事を掲載していたことが報道されたことを受け、3月30日の朝日新聞(以降、朝日)生活欄に「ネットの医療情報  見極めるには」という記事が掲載されました。そこにはとてもいいことが書いてあるのですが、「標準治療を知るためには(各学会がまとめた)診療ガイドラインをみるとよい」などと、一般の方には敷居が高いと感じるような記述もあり、少し難しいところもありました。そこで今回は、氾濫するネットの医療情報に惑わされないように、もう少しわかりやすく解説しようと思います。

商業的なウェブサイトは信用できない

 医療とともに皆さんの高い関心事である「お金」を例にとって考えてみましょう。検索サイトで、「不動産」「投資」と入れると多くのサイトがヒットしますが、URL(ネットの住所みたいなもの)が「不動産投資」とある、特定の企業と無関係そうなところをのぞいてみると、「マンション投資の甘い罠」などどいうボタンがありました。これをクリックするといくつかのページの後、特定の不動産商品に誘導されました。このような商業サイトへの誘導は、医療関連サイトにも数多く見受けられ、朝日にも一般的な医療情報から特定の医療機関のサイトへの誘導の例が示されています。商業的な医療として、「自由診療(保険外診療)」があります。これに誘導するサイトはたくさんあります。朝日には、「自由診療=最新でいい治療は誤解」とあります。たいていそういう場合が多いです。

「体験談」には要注意

 新聞広告と同様の、実名・写真入りの「体験談」をよくネット上で目にします。化粧品や腹筋トレーナーなどを売るための常套手段ですが、読めないような小さい字で「あくまで個人の感想です」とあります。化粧品の場合は、とても60才に見えないきれいなモデルさんを使用していますね。医療の場合も同じで、特別に劇的な効果があった人のみを紹介しているにすぎません(あるいは全くのデタラメか)。健康食品、健康器具、その他のすべての医療関連商品広告で、「体験談」を載せているものは敬遠すべきです。

「医師監修」も要注意

 医師が監修しているから安心、というわけではありません。まず実名が出ていないものは論外です。実名があれば、その人の経歴を確認してみて下さい。がんの専門医なら、その領域のがん学会の専門医資格を持っているかどうか、どの医療機関に所属しているか、確認しましょう。学会のサイトは、一般の方が専門医を探すために医師の氏名、所属を公開しています。このような情報が確認されず、かつ、商品が売れればその医師に報酬が入ることが想像できる場合、敬遠した方がいいでしょう。

「臨床試験」「科学的根拠」って何?

 朝日には、「ランダム化比較試験に基づく論文が根拠として示されていると信頼性が高い」とあります。わかりにくいので錠剤を例にとって補足しますと、本物のお薬そっくりのにせの錠剤(プラセボ)をつくり、本物か、にせものか、(患者/医師に)どちらか分からないように2種の錠剤を2群の患者さん達に使用します。にせものでも「プラセボ効果」という、有効成分が入っていないのに症状がよくなる効果があるので、本物のお薬の本当の効果が確かめられる、というものです。そういった「臨床試験」の結果は、英文の医学雑誌に論文として掲載されることで、世界 的な評価を得ることができ、その治療法の「科学的根拠」が確立されます。現在、公的医療保険が適応される治療(保険診療)は、こういった臨床試験を経ていますので、まず信用できます。保険診療の場合、治療法の選択(たとえば、A, B, Cのお薬のうち、どれかを選ぶなど)によって医師への報酬に変化があるわけではないので、医師は純粋にどの薬が良いかを考え、経験に基づいて処方するので、偏りのない医療といえます。ただ、比較的侵襲を伴う医療行為(手術や、少し苦痛を伴う処置)については、医師の経験により治療選択に差がある場合があり、複数の医師の意見を聞くのがいいかもしれません。「自由診療」は、こうした「臨床試験」をしっかり行っておらず、「科学的根拠」に乏しい場合が多いので注意が必要です。

確かな医療情報を得るためには?

 臨床試験の科学論文の質が高い否か、というのは医師でないと分かりません。科学論文にもランクがあり、三大全国紙~三流週刊誌のように、その質には大きな幅があります。では、どのように確かな情報を得られるのでしょうか?朝日にもありますが、「日本医療機能評価機構」が運営する「Minds(マインズ)」というサイトには一般の方が分かる解説付きで、各疾患の治療法の比較をみることができます(図)。

 皆さん、いろいろとお調べになってこられます。「黒酢ニンニクは効きますか?」などという質問には、「お財布に余裕がある方はどうぞお好きに」とお答えしています。経済を活性化するのはいいことです。