みなさん、生命保険・医療保険に入っている方、多いと思います。入院・手術で医療費の補助が出る保険、この日本ではさほど必要性が高くないこと、ご存じですか?そのわけは、我が国が誇る「高額療養費制度」があるため、数百万円かかるはずの医療行為を受けても、ひと月の自己負担額が3.5万から最大でも25万円で済むからです。医療保険に高いお金を払いくらいなら、その分投資に回すという選択肢はありですよね。他の国での医療費の現状はどうなのでしょうか?盲腸(医学用語では虫垂炎)手術を受けると、下表のようにアメリカでは日本の5倍以上かかり、しかも民間の割高な医療保険に入っていないと自己負担10割となってしまい、低所得層は高額な医療をあきらめざるをえない、というのが現状です。
我が国では、国民すべてが高額な保険医療を受けることができ、どんなに高額な医療であっても、上表のように月の上限額が決まっているため、とても恵まれているのです。
高齢化の進展や医療の高度化で、高額療養費の支給総額は2012年度の2.1兆円から2021年度には2.8兆円に膨らんでいるそう。厚労省は、この上限額を引き上げようとして、今国会に法案を提出しましたが、参院選を控える自民党議員の反対等もあり、石破首相は「延期(廃案ではなく)」を決めました。引き上げの理由として厚労省は、賃上げなどを通じて世帯収入が増加していることや、物価上昇が続く中で現役世代を中心に保険料負担の軽減を求める声が多いことを挙げています。みなさんの中には、この国や我が家が豊かになったという実感を持つ人は少ないのではないでしょうか?これまでこの通信では、政治的なことに触れるのを避けてきましたが、地域医療に携わる一臨床医として、医療・お金・政治について、あえて私見を述べたいと思います。
この国には医療に対する前時代的な認識が根強く生き残っていて、医療費の無駄を生み出している
しんとこ駅前クリニックは循環器専門クリニックなので、あまり上記を実感することはないですが、知り合いの一般内科を手伝っていると、患者さんの意識が昭和のままであり、医療に対する無知が医療費の無駄を生んでいる、と感じています。具体的には、
① 風邪はひきはじめに治してしまうのがいい、と市販の風邪薬のTVコマーシャルを信じている方が、「さっきから寒気がして、早めに来た方がいいと思って」と来院>> 正直やることはなく、「今後の症状の移り変わりが大事で、それにより風邪以外の重篤な病気が考えられそうなら適切な検査を実施し、診断に応じた治療をしますが、今、治療できることはありませんし、必要もありません。様子を見ましょう」と言ったら、「せっかく来たんだから、薬を出してくれ」と言われます。風邪薬はただ症状を和らげるだけで、病気を治すわけではないので、薬は要りません。でも、正論を押し通しても時間を浪費するので、仕方なく薬局で手に入るような総合感冒薬を出してしまいます。。
② 風邪症状があり受診され、「風邪だから抗生物質を出してくれ」と。>> 風邪はコロナやライノウィルスなどにより生じ細菌感染症ではないので、抗生物質は効きません。逆に、下痢などの薬害しかないのに。。
③ 「風邪だから点滴してくれ」>> 口から飲食ができる人に点滴は不要だし、無駄。
アメリカでは、風邪で医療機関にかかる人はいません。通常、薬局でOTC薬品(医師の処方せんが必要ない市販薬)を購入し、経過観察します。日本政府もそのような医療に誘導しようとしていますが、上記のような前時代的な考えが患者側に根強い限り、すぐには変わらないでしょう。また、こういう医療が町医者の経営を支えており、医療側も「分かっちゃいるけど」何も言わないんですね。ただ、数十万人にひとり、風邪症状から始まる重篤な病気(急性心筋炎、劇症型糖尿病、インフルエンザ脳症など)の方がいます。そういった、本当に医療が必要な人かどうか、初期症状から推定できるようなAI(エーアイ)診断の開発は急務だと思います。
地域医療に携わる診療所医師のひとりごと「あー、正直無駄な薬だけど。。無駄な抗生物質の投与をすると下痢などの害しかないし。抗生物質の乱用は耐性菌の増加を招くから、学会から諫められているからダメなのは分かっているけど、断って嫌われてネットに書き込まれたら評判が落ちるからなぁ。患者さんが減って収入が減るかも。職員のお給料を下げるわけにもいかないし、正論を主張すると時間がかかるのも面倒。ここは仕方ない、、言われるままにしようか。みんなやっていることだし。」
小児医療費無償について
埼玉県では、およそ半分の自治体で小児(18歳までのところもある)医療無償化を実施しています。子育て世代にはとても助かる制度で、この政策があるからその自治体へ転居する、という若い世帯もいるようです。持病があり、定期的に医療機関に受診しなければならない子供や、手術などの高額な治療を受ける子供をもつご家庭には必要な政策ですが、そうでない場合、これも医療費の無駄遣いにつながっていることが指摘されています。医療にかかった費用の7割は親の保険者から支払われ、3割は自治体が負担します。医療費は無料ではなく、税金でまかなわれます。タダだから、たいした症状でもないのに医療機関にかかり、無駄な検査や薬の処方がされてしまいます。子育てが終わり、この政策の恩恵が得られなくなった僕からは言いづらいのですが、子供が医療を受けたら、わずかでもいいので負担してもらう方がいいと感じています。それよりも、夜間休日の小児科診療の充実に税金を使うべきだと思います。特に所沢市は。
生活保護が認定されると医療費の自己負担はない
同様のことが、生活保護を受ける方の医療費無償についても言えます。当院のかかりつけ患者様にはそのような方はいませんが、初診の方の中には、他人が支払った税金のおかげで自分が医療を受けられる、ということを忘れている、と感じる人がいます。具体的には、この薬を処方してほしいと、高額な薬を要求したり。小児医療と同様に、わずかでもいいので負担してほしい、という議論が起こるかもしれません。
最近、医療機関の倒産・閉院が相次いでいます。その大きな理由は、消費税増税・物価高により経費が膨れ上がるものの、他の業種と異なり、医療費を値上げし、価格転嫁することができないからです。医療機関の収入は、ほぼすべて「診療報酬」から入ってきますが、上記の理由で増額が必要な診療報酬を、政府は逆におさえようとしているのです。すべての医療機関を守る必要はないと思います。前時代的な医療の、ある程度の淘汰はやむなし、と思います。ただ、やりすぎると医療機関の絶対数や、その機能が減りすぎて、「国民皆保険制度」が崩壊する可能性があります。具体的には諸外国のように、かかりたい時にすぐにかかることができない、かかりたい医療機関にかかれない、という未来が見えています。複数の医療機関を受診して、睡眠導入剤を不法に入手・転売して利益を得る犯罪者は取り締まってほしいですが、他人にあげるほど必要以上に湿布をため込んでいる人や、子どもに処方された無料の花粉症のお薬を自分で使う親などは、罪悪感が希薄でタチが悪く、国家の被害額はより多いかもしれません。国民ひとりひとりが、ちょっとづつ他人や、社会への思いやりを持つことこそが大切なんだと思います。
患者・医療行政に関わる人、それぞれのひとりごと
厚生労働省若い官僚のひとりごと「すべての人が幸せになるようにと公務員になったけど、政治家に振り回されて理想通りにはならない。政治への根回し済みで高額療養費上限引き上げを決めたのに、参院選で落選する議員が増えそうだから撤回しろって。。だったら、他に削れるところがあるのに、しがらみだらけで知らんぷり。医療側には、診療報酬を上げてくれないと倒産する医療機関が増えてしまう、と恨まれるし。どうすればいいのか。。」
当選回数1回の若い自民党議員のひとりごと「限りある財源を、医療が必要な人に公平に届けたいという思いはある。今回の選挙では、高額療養費引き上げが実施されると、さらに逆風が吹いて落選するかも。子供や生活保護の方における医療費無料については賛否があるけど、今回は、高額療養費制度の改変反対、とはっきり言っておこう。。それが身のため。」
選挙に立候補する市長のひとりごと「子供医療無償化は無駄が指摘されているけど、一度始めたことはやめづらいな。票を減らしたくないし、継続するしかない」
がん治療で苦しむ40歳台シングルマザーのひとりごと「子ども手当や、子ども医療費無料政策で、家計はとても助かっているけれど、月5万円で済んでいるがん治療費が7万円になると、食費も切り詰めないといけないし、子どもの習い事もやめさせるしかないかな。。高い薬をあきらめたら、がんが再発するのかな。まだ死ぬわけにはいかない。自分のことばかり主張するのは気が引けるけど、やっぱりなんとか今の上限額を維持してほしい。」