8月のしんとこ通信で、高齢者がお薬とうまくつきあっていく姿勢について触れました。
内容をかいつまんでご紹介しますと、
① 高齢者には様々な訴え(どこか体の調子が悪いこと)が多い。
② 医師にあれこれ訴えるほど診察時間が延びるので、医師はつい患者さんの要望に応える形で無駄な薬を出してしまう
③ 無駄な薬により副作用が増え、訴えが増える。
④ さらに無駄な薬が出てしまう。
ということでした。
薬害がさらなる薬害を招くわかりやすい例を2つほどご紹介します。
血圧が高い場合、このようになりがちです
70代の女性が頭痛や肩こりなど体調が悪いときに血圧を測ると180くらいあるので、あわてて近所のお医者さんに受診します。
そうすると、血圧の高いときに飲みなさい、と即効性のアダラートという飲み薬を毎回処方されるそうです。
僕が医師になった頃(1992年)、このような治療がさかんに行われていましたが、最近ではこのような即効性のくすりで血圧を下げることは良くないとされています。
この患者さんの一時的な高血圧は、困った症状により引き起こされており、その症状を和らげる治療はしても、血圧を急に下げることは奨められません。
この即効性アダラートという薬、副作用があるのでこういう治療は良くないということになったのですが、脈拍が早くなり「どきどきする」という動悸の症状が出やすいのです。
この方もその動悸が出るので、今度はそのお医者さんにその旨伝えると、「精神安定剤を出しましょう」、ということでまた無駄な薬が出ます。
この安定剤の副作用により、患者さん「頭がぼーっとする」と。次はどんな薬が出てしまうのでしょうね??
補足ですが、何か困った症状がある場合、夫婦げんかなど精神的に不安定な場合、血圧は上がるのが自然です(下がるのは心配です)。
これまで経験したことがない頭痛・胸の症状がなければ、あわてて救急車を呼んだり、血圧を急に下げる必要なありません。精神衛生上、こういうときは血圧を測らない方が得策です。
また、定期的に服用する徐放型のアダラート(アダラートLやCR)は問題ありません。
「足がむくむ」
70代の男性が、「足がむくむ」と訴えて来院されました。他に足がつるなどの症状もあるそうです。
よく話を聞いてみると、近所のお医者さんで出た高血圧のおくすりを服用しだしてからとのこと。
アムロジピンという薬はいい薬ですが、特に高齢者でむくみの副作用が出やすいのです。
上記のアダラートも同系統のくすりですね。すると次に、むくみをとる利尿剤が出たとのこと。
この利尿剤、血中のカリウムを低下させる副作用があり、足が痙攣(こむらがえり)したりします。
この患者さんにもこの痙攣(足がつる)が出たので、つぎは足の痙攣をおさえる漢方薬が出ました。
この漢方薬、人によって血液のカリウムを下げる副作用と、血圧を上げてしまう副作用が有名です。
あれ?何のためにお薬が始まったのでしたっけ??
このように、多剤併用の薬害には、医師・患者さん、双方に問題がありそうです。気をつけましょう。