高齢者の定期受診における定期的血液検査の意義について

高齢者の定期受診における定期的血液検査の意義について

心臓病・糖尿病・高血圧などの慢性疾患の患者さんは、お薬の治療をしているので定期受診されていますね。
僕を含めて内科医は、こういった患者さんに時折血液検査をします。
糖尿病診療に血液データが必要なのは理解できますが、特に問題のない高齢の患者さんに定期的な血液検査をするのはなぜだと思いますか?
本来の目的である慢性疾患の診療以外に、医師は高齢者に生じる新たな病気の早期発見に気配りしているからです。
2つほど例をお示しします。

肝臓の数字が徐々に上昇ー実は骨に原因が…

72歳男性の血液データの異常について同僚医師から相談をうけました。
困った症状は全くないのですが、血液中のアルカリフォスファターゼ(ALP)値がどんどん上昇している(右図)、というのです。
ALP高値ではまず肝臓や胆嚢の病気を疑うことが通例なので、彼もCTやエコーでこれらの病気がないかどうか調べたのですが、全く問題がないとのことでした。
僕も自分で腹部エコーなどを行いましたが問題がなく、ALPの構 造異常により血液検査で見かけ上高値になる状態があるので、検査会社に依頼してこれを調べましたが問題なし。
ALPは肝臓で作られる以外に骨でもできるので、念のために「骨シンチグラフィー」という、骨が壊れると画像化できる検査を、ダメ元で行ってみました。
これが診断につながりました。

この患者さんには全身の骨への前立腺がんの転移(右図、黒いところ)があることが明らかとなったのです。
通常、このような患者さんは痛みを訴えるのですが、症状がないこともあるのですね。
骨が癌細胞により壊されて、骨からのALPが血液中に流入し、高ALP血症となったのです。

徐々に貧血が進行する場合には?

心房細動という不整脈で血液さらさらになるお薬(抗凝固薬)を服用している92歳女性の血中ヘモグロビン値が徐々に低下し、貧血が明らかになってきたのが気になっていました(図)。

心房細動は心臓の規則正しい拍動がなく、そのため血液がよどんで血栓(血のかたまり)を作りやすいため、血栓が脳へ飛んで大きな脳梗塞を起こす危険性があることから、抗凝固薬を服用する場合があります。
特に高齢者では、脳梗塞発症のリスクが高いので薬が必要となるのですが、こういった薬の服用により、隠れた消化器がんから出血が起こり、貧血が進行することでがんが早期に診断できることがあります。
この方も大腸がんが疑われたため、大腸内視鏡の実施をお奨めしていましたが、高齢を理由にお断りになっていました。
しかし、貧血が進行するにつれ、動いたときの息切れがひどくなったため、大腸内視鏡を受けていただいたところ、予想通り、大腸がんが見つかりました。
まだ初期の段階であったので、腹腔鏡(お腹を切ることなく、何カ所かの穴から棒状の器具を差し込んで手術する方法)による手術により、がんを取り切ることができ、現在では完治してお元気にしていらっしゃいます。

採血はちくっと痛いですが、こういった利点もあります。いやがらないで下さいね。