高齢者がお薬とうまくつきあっていくには?

今月は高齢者がお薬とうまくつきあっていく姿勢について触れようと思います。

高齢者ほどたくさんのお薬を処方されやすい
 日本の医療制度は国民皆保険という恵まれたものなので、ちょっとしたことでも病院にかかり、不必要なお薬が処方されやすい傾向にあります。
高齢者の医療費負担は少ないので、さらにその傾向が強まります。
医師がお薬なしで経過をみた方がいいと感じても、そのことを時間をかけて説明するよりも、「薬でも出しておきましょう」ととりあえずの満足を得てもらう方が楽なので、ついつい無駄な薬の処方をしてしまいがちです。
薬を出さずに「経過観察」といわれると、「何もしてくれない」というふうに受け取る患者さんもいるので、そういう姿勢も問題です。
先日、他の病院から当院へ移ってきた患者さんのお薬手帳を見て驚きました。
高血圧で定期受診している80代の女性ですが、中止できるのではないかと思われる以下の7種の薬を服薬されていました(①めまい薬②血流を良くする(?)ビタミンE製剤③不安を抑える薬④むくみをとる利尿薬⑤⑥胃薬2種類⑦整腸剤)。
おそらく定期受診の際、症状を訴えるたびにお薬が増え、こんなふうになってしまったのでしょう。

現在、2週に1回受診してもらい、一つづつ中止をしているところです。

高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015
 心臓病や脳血管病をすでに発症しており、その予防のために服薬するお薬は中止することは奨めませんが、そうでない高齢者の「多剤併用」は可能な限り避けるべきです。
かかりつけ医はそういう姿勢で患者さんの診療にあたるべきなのですが、日本では専門医教育に偏り、総合的/全人的な診療能力を要するかかりつけ医教育が貧弱なので、他の医師が処方した薬を中止していいかどうか、分からないのでそのままになってしまう、という現状があります。
そういったニーズから、日本老年医学会は「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」という、医師向けの高齢者診療指針を出しています。
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これには高齢者に「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」が掲載されており、どんな副作用が起きやすいのか、それでも使用せざるを得ない場合の注意点などが書いてあります。週刊誌にはこういうことを取り上げてほしいですね。