どんな症状なら救急車を呼んでもいいの? 脳卒中編

先月、どんな特徴があれば緊急性があるか、胸痛・頭痛・腹痛・発熱について解説しました。
今回は、緊急性があるかどうか、とても迷う「脳卒中」編です。

脳卒中とは

「脳卒中」とは、突然、脳の血管が破れたり、つまってしまったりして、手足の麻痺や言葉が出なくなるなどの「神経脱落症状」をおこす病気の総称です。
脳卒中は大きく以下の3つに分けられます。
①脳梗塞(血管がつまる)
②脳出血(血管が破れ、脳の中に拡がる:昔、「脳いっ血」と呼ばれていました)
③くも膜下出血(脳動脈瘤が破裂し、「くも膜」と脳の間に血液がたまります)
いずれも、発症後速やかな処置をしないと死に至ったり、重い後遺症が残ったりするので、救急車を呼ぶような緊急性がある病気です。

脳卒中の症状って?

脳卒中というと、「突然、意識を失って倒れる病気」と思っている方が多いようです。
しかしこの症状は「失神」と言われるもので、脳の病気よりも心臓や血管の病気の症状であることが多く、脳神経外科よりも循環器内科への受診が奨められます。
では、脳卒中の症状にはどのような特徴があるのでしょうか?

前回も触れましたが、脳卒中の特徴は「突然おかしくなる」ことです。
たいてい、朝起きたとき、夜トイレに起きたとき、仕事中突然、など、今まで何ともなかったのに急におかしくなります。
その中でも、脳卒中であることが間違いない、そうかもしれない、まれだけど可能性がある、
よく脳卒中を心配されるけどそうではない、の4段階でその症状をご紹介します。

(1)まず間違いなく脳卒中

・左右どちらかの手足(顔を含む)が同時に動かしづらくなる/感覚が鈍くなる
・片眼が急に真っ暗になって見えなくなる(手で片方づつ目を覆って確認)
・声は出るが言いたいことが表現できない/人の話していることが理解できない
・バットで殴られたように、突然で激しく始まり持続する頭痛(くも膜下出血の可能性。
1-2秒以内の短い痛みは神経痛なので心配なし。徐々に始まる頭痛には緊急性がないことが多いです)

(2)脳卒中かも。。。

・視野の一部分が見えない

・ろれつが回らない
・立つとバランスが悪く、いつもみたいにちゃんと歩けない
・いつもできる簡単な動作ができない(箸がうまく使えないなど)

(3)まれだけど、脳卒中もありうる?(どっちかというと違うことが多い)

・ぐるぐる回るめまい
(頭を含めた姿勢の変化に伴う30秒以内のめまいは「内耳性」、姿勢の変化とは無関係の60秒以上は脳卒中疑い)

(4)患者さんがよく、脳卒中ではないか、と心配するが、脳卒中ではない症状


・手、または足のどちらか片方のしびれ/痛み

脳の右側が体の左半分、脳の左側が体の右半分の運動神経・感覚神経を制御しています。
顔と手足といった離れた体の部分の、左右どちらか半分だけに運動・感覚の異常が突然出現した場合には、脳卒中を強く疑いますが、手だけ、足だけ、というのは整形外科の症状であることがほとんどです。

脳卒中を疑ったらどうすればいいの?

上記のような症状があればどのように対応すればいいのでしょうか?
脳卒中が起きたら「患者さんを動かさずに、安静にして様子をみる」という昔からの言い伝えは間違いです。
風邪を引くとお風呂には入らないほうがいい、というのと同じですね。
これも迷信です。
何か様子がおかしいからといって、安静を強いるとどうなるか。。。。

歩き方がおかしい、いつも簡単にできる動作ができない、いつも話せる言葉がでてこない、など、「いつもと違う」ことに気づきにくくなります。
こんな対応をして、受診が1~2日遅れ、治るはずの症状が重い後遺症として残った方を僕は何人も知っています。
おかしい、と感じたら、ご家族の方はいつもと違うかどうか注意し観察してみて下さい。
脳卒中を疑った際、医師が行う検査(といっても特殊な機器は必要ありません。

こういう簡単なことがCTなどの高価な検査よりもっと重要なのです)を紹介しましょう。

①バレー徴候:図のように、手のひらを上にして、両腕を前に水平に挙げます。ここで目を閉じるように促すと、脳卒中の軽い麻痺がある場合、麻痺の腕が下に落ち、手のひらが横を向きます。
②片足立ち:普段、バランスの保たれている方に片足で立たせてみて下さい。どちらかでうまく立てない場合、脳卒中かもしれません。
③「ルリモ、ハリモ、テラセバヒカル」と言ってもらいましょう。脳卒中で喉が麻痺すると、「ウイヲー,アイヲー,エアエアイアウー」とうまくしゃべれなくなります。

家族を守るためには、「いつもと違う」と感じることが一番大切です。
脳卒中の治療の成否は数時間で明暗が分かれます。救急車を呼ぶと近所迷惑、とか、大げさに騒ぐと恥ずかしいとか、そういう理由で、「様子を見よう」と決してしないで下さい。
前回と同じことを書きます。
患者さんもいろいろで、ささいな症状がとても心配になる方もいれば、重大な病気の症状をやせ我慢される人もいます。
近親の方はそういった患者さんの特徴をふまえ、いつもとは違う、急がなければいけないかもしれない、と感じられたら、迷わず救急車を呼びましょう。