『もっと知りたい!飲んではいけない薬』

先月のブログで、週刊誌の記事についてコメントしました。反響が多いので、今月も終わらない悪質な記事について反論します。「もっと知りたい!飲んではいけない薬」ですが、当院でお出ししているものがいくつかあります。

高血圧・脂質異常血症

今回もまた、「横紋筋融解症」というきわめてまれな副作用をことさら大げさに取り上げ、その副作用について「生きる気力まで奪われた」などと書いています。

ミカルディス、アジルバなどの降圧薬、クレストールなどのスタチンといわれる脂質低下薬の登場で、四半世紀前と比較して、重症の心臓病は確実に減っています。

これは、心臓血管病の患者さんを長年見続けた医師ならだれもが口にする感想です。

無作為割り付け試験という、ど ちらが偽薬か実薬なのか、患者と医師に分からないようにする臨床試験の解析により、30%以上の患者さんが死亡せずにすむことも広く証明されているのです。

特にスタチンは、日本人である遠藤章先生が発見し、ノーベル賞の候補にも挙がっています。

そのような優れた薬を、数千〜数万人にひとりにしか起きないまれな副作用のために「飲んではいけない」というのは、事故の可能性があるので車に乗るな、というのと一緒です。

ばかげています。また、スタチンの服用により糖尿病が発症する、と記事にあります。

確かに血糖が少し悪化することはあります。しかし、既に心臓病をお持ちの方にとって、少々血糖が上がることに比べ、薬を服用することによる心臓病の予防効果は比較できないほどに大きく、そういった欠点を補って余りあるのです。

糖尿病

ジャヌビアはこの数年で多く処方されるようになってきた治療薬で、低血糖などの副作用が少なく、安心して服用できるお薬です。

この記事では、「アナフィラキシーショックを起こす可能性があるので飲むな」と書いてあります。

ここで強調したいことは、副作用のないお薬はない、ということです。

アナフィラキシーショックや皮膚の湿疹が出るかどうかは予測する手段がなく、飲んでみて試すしかないのです。

我々医師は、どのような状態の患者さんにどういう治療を行うか(あるいは行わないで様子を見るのか)、常にリスクと利益を天秤にかけながら考え続けています。

たとえば、放置すれば死に至るような重篤な病気には、副作用をある程度覚悟しなくてはならない治療でも敢えて行いますし、糖尿病などの生活習慣病では重病の予防が目的なので、副作用の少ないものしか選択しません。アナフィラキシーショックはアレルギーの一種ですが、湿疹と異なりまれな副作用で、ジャヌビアでなくても他のすべての薬(あるいは食品など、すべての異物)で起こりえます。

薬を飲むということは、湿疹などを含む薬へのアレルギー発症をある程度覚悟する、ということなのです。そういうリスクをいやがる方は、ありとあらゆる医療を受けることができないし、はじめての食べ物も食べられない、ということになります。

認知症

アルツハイマー型認知症治療薬「アリセプト」に「危険な副作用」がある、とありますが、よく読んでみると「食欲低下」がその副作用だと書いてあります。

そのような副作用を避けるために、少量から開始し、徐々に増やしていくのですが、そのようにすればこの副作用は避けられるし、もし出てしまったら中止すれば良いだけのことです。

食欲低下は軽微なもので、「危険」な副作用とは思えませんが、こういう過激な言葉で煽ることは彼らの得意とするところです。

まとめ

こういう記事の取材に答えたり、テレビに連日登場するような医師は、重症の病気で困っている患者さんを診たり/患者さんと日々お話ししたり/医学について勉強したりする大切な時間を、そういったことに使っています。

あなたは、そういう一握りの医師か、あるいは日夜患者さんの診療を懸命に行っている多くの医師か、どちらの言うこと信じますか?必須薬の自己中断による心臓病再発/死亡の責任を週刊誌が取ってくれますか?中高年にとっての関心事は、彼らの飯のタネなのです。

販売部数が上がるから、こんなにしつこくやるのです。まともな医師は皆怒っています。